百組目の花嫁

鷲塚佳門は、妻の筑紫野美帆莉が招待状を作る姿を見ると笑った。

「結婚式ごっこで小遣い稼ぎか。専業主婦なら自分の家を整えろ。誰のおかげで飯が食えてる」

美帆莉は、式を挙げられなかった友人のために、小さな庭で祝う会を企画したのが始まりだった。予算、家族関係、病気、車椅子。豪華さではなく、その二人に必要な一日を作った。

口コミで依頼が増え、空き店舗を借り、写真家、花屋、料理人とチームを組んだ。

佳門は妻が「友達の手伝い」で外出していると思っていた。

彼の勤めるホテルで、婚礼事業の再建コンペが開かれた。予約減少に悩むホテルは、外部プロデューサーを募集していた。

最優秀提案者として呼ばれたのは美帆莉だった。

「筑紫野ウェディングは、これまで九十九組を担当し、キャンセル率ゼロです」

高額プランを押し売りせず、使わない装花や料理を減らし、スタッフへ適正賃金を払う。家族だけの式から国際婚まで対応し、年間売上は三億円。ホテルは十年間の独占契約を提示した。

佳門は会議で言った。

「妻は自分の結婚式すら僕任せでした。経営能力があるとは思えません」

美帆莉は当時の請求書を映した。佳門は式費用を全額自分が払ったと主張していたが、実際は美帆莉の結婚前の貯金から七割が出ていた。彼は親族への見栄で予算を二倍にし、支払いを妻へ隠していた。

ホテルは佳門を婚礼営業から外し、経費処理を調査すると告げた。

百組目の打ち合わせの日、美帆莉は自分の事務所で佳門へ離婚届を差し出した。

「結婚を作る仕事をしてるのに、自分は離婚するのか」

「続ける価値がある結婚と、終えるべき結婚を見分ける仕事でもあるの」

新居、役員報酬、スタッフ体制は整っている。佳門の収入へ頼る必要はなかった。

百組目の花嫁が契約書へ署名し、ホテルも十年契約を承認する。

美帆莉が離婚届を佳門の前へ置いた瞬間、九十九組を幸せにした“ごっこ”はホテルの未来を担い、彼女自身の結婚だけが百組目より先に終了確定となった。