真珠首輪を海へ返す

海豹獣人ネレウの首には、七粒の真珠を連ねた首輪があった。

 一度潜るごとに一粒が黒くなり、七粒すべてが染まるまで浮上を許されない。

「海底神殿の王珠を取ってこい」

 真珠商が命じると、ネレウは嵐の海へ飛び込んだ。

 七度目の潜水。肺は裂けかけ、首輪は六粒まで黒い。

 その船へ、私掠船長メーヴェが横づけした。

「人を海へ沈める許可証を見せな」

「正式な所有契約だ。欲しければ王珠と交換で譲ってやる」

 商人が掲げた親珠は、首輪の七粒を支配する大きな真珠だった。

 メーヴェは大砲を親珠へ向ける。

「撃てば首輪も爆発するぞ!」

「だから弾は使わない」

 彼女は砲口から細い銛を射出した。銛の先には磁針ではなく、貝殻を開くための音叉がついている。

 親珠へ触れた瞬間、海鳴りと同じ低い音が響いた。

 真珠は海で生まれたものだ。所有術は表面へ刻めても、中心に残る潮の記憶までは消せない。

 音叉が故郷の波を聞かせると、親珠は自ら殻を開くように割れた。

 海中でネレウの首輪もほどけ、七粒の真珠がばらばらに沈んでいく。首を締めていた重みが消え、海水が初めて冷たく、そして優しく感じられた。

 彼は王珠へ伸ばしかけた手を引き、自分の意思で海面へ浮上した。商人の鐘が何度鳴っても、潜り直す必要はもうない。

「私の船印へ付け替えれば、優秀な潜水士になる」

 商人がなお食い下がる。

「船員名簿に所有欄はない」

 メーヴェは契約書を丸め、親珠の欠片と一緒に海へ投げた。

「岸は南だ。泳げるだろう」

 ネレウはうなずき、白波の向こうへ消えた。

 三日後、メーヴェの船が海底神殿へ向かうと、甲板の縄へ何かが結ばれていた。

 ネレウが海から顔を出し、自分で作ったほどける結び目を示す。

「これは隷属の鎖じゃない。嫌ならいつでも外せる命綱だ」

「岸へ行かなかったのかい」

「行った。自由な浜で眠った。それから、自由な船を選びに来た」

 彼は銛を自分の手に握ったまま、船の横を泳ぎ始める。

 海へ返した七粒の代わりに、一本の命綱が、自ら選んだ仲間と彼をゆるく結んだ。