石垣の向こうの夕食

傭兵隊長ファルクが引退を願い出ると、雇い主は山奥の捨て農地を渡した。

段々畑の石垣は中央から崩れ、土が道へ流れ出している。直すには百人が必要だと、村人は言った。

初日、ファルクは崩れた全部を見なかった。

腕三つ分だけ直す。

戦場で覚えたのは、剣の振り方だけではない。重いものは下へ、平らな面は外へ、隙間には小石を噛ませる。兵を並べるように石を選び、一段ずつ積んだ。

石を持ち上げるたび、昔の陣形が頭へ浮かんだ。大きな石だけを並べれば隙間から崩れる。小さな石だけでは重みに耐えない。前へ出る者、支える者、黙って穴を埋める者が必要なのは壁も隊も同じだった。ただし石は、失敗しても血を流さない。ファルクは一段積むごとに肩で押し、揺れを確かめた。動く石は外し、合う場所を探し直す。急かす太鼓も将軍の怒声もないため、正しい位置が見つかるまで待てた。最後に壁の上へ手を置くと、夕日の熱を吸った石が掌へゆっくり返してきた。

昼には腰が痛み、夕方には指の皮が剥けた。それでも最後の大石を押し込むと、短い壁がぴたりと立った。

試すように、放し飼いの山羊が上の畑へ入ってきた。

土を蹴り、崖際まで走る。ファルクは身構えたが、石垣は一粒の土も落とさなかった。

「隊長!」

馬蹄の音とともに、昔の副官が現れた。

「国境で戦です。将軍職を用意すると。今なら兵千を預けるそうです」

ファルクは返事をせず、石垣の向こうへ山羊を追い返した。小さな木戸を閉じ、横木を落とす。

「兵千ですよ」

「今日は石を二十七個、預かった」

「比べるものではありません」

「そうだな。石は命令しなくても、置いた場所にいてくれる」

小屋の前では、鉄鍋で腸詰めと豆を焼いていた。腸詰めの皮がぱちんと弾け、脂が豆へ染みる。焼けた胡椒の匂いが夕風に乗った。

副官がなおも命令書を差し出す。

ファルクは木皿へ夕食を盛り、修復した石垣の内側へ座った。

「話は食後だ。冷めた飯で勝てた戦はない」

石垣の向こうに軍馬を待たせたまま、彼は熱い腸詰めへナイフを入れた。