砂時計の最後の命令

砂海を渡る隊商には、嵐より確実な護衛がいた。

砂で造られた戦闘人形ザフ。体を粒子へ変えて矢を防ぎ、敵の肺へ入り込むこともできる。彼の所有契約は隊商長の砂時計に封じられ、一粒落ちるたび命令が一つ心炉へ刻まれた。

地図師サリハが雇われた旅で、隊商長はオアシスの難民を見つけた。

「水を奪え。ザフ、抵抗者を砂に埋めろ」

砂時計が返され、最初の粒が落ちる。

ザフの右腕が刃へ変わった。だが難民の中には子供がいる。彼の顔に感情はなくても、刃先だけがわずかに揺れた。

サリハは隊商長の腰から砂時計を奪った。

「所有者欄へ血を垂らせ!」

隊商長が叫ぶ。

時計の蓋には空の印章枠がある。そこへ血を入れれば命令権はサリハへ移り、虐殺を止められる。

だが次の隊商長が現れれば、また同じことが起きる。

サリハは短剣で蓋の蝶番を切った。

「開けるな! 契約砂が散れば、そいつの体も崩れるぞ!」

ザフは刃を難民へ向けたまま言う。

「命令の完遂を。私は失われても問題ありません」

「問題かどうかを、持ち主が決める話じゃない」

彼女は砂時計を高く掲げ、風へ開いた。

黒い砂が一斉に舞い上がる。ザフの体も足先から崩れ、砂嵐へ溶けていった。

隊商長が笑う。

「馬鹿め。護衛を殺しただけだ」

次の瞬間、風向きが変わった。

黒砂は難民を避け、隊商長たちの武器だけを包んで錆びさせた。命令砂を失っても、ザフの核は一粒の白砂として残っていたのだ。

白砂を中心に、男の姿が再び組み上がる。

「埋める相手を、私が選びました」

ザフは隊商長の足元だけを膝まで固め、水袋を難民へ渡した。

騒ぎの後、彼は風に乗って一人で砂海へ消えた。サリハは難民を連れ、空になった砂時計を道標の下へ埋めた。

三日後、水が尽きかけた頃、前方に新しい井戸が現れた。その縁へザフが座り、満たした水筒を掲げている。

「砂海の端まで行きました。命令の粒は一つも追ってきませんでした」

「これから、どこへ?」

「地図にまだ名のない場所へ。あなたの隣なら、道を記録できる」

彼は胸の白砂へ指で《ハディル》と刻んだ。

「風を選ぶ者。これが私の最初の命令ではなく、最初の名前です」