穴のあいた盾が空を守る
敵国の魔導砲が、城壁へ二射目を向けた。
一射目で東塔は消えた。次は避難中の市街地を狙っている。防壁術師は全員倒れ、残った兵は砲弾を止められる盾など持っていない。
伝令兵のリュカは、東塔を壊した砲弾から落ちた戦利品を一度だけ拾っていた。
薄い木板に革を張った、中央に拳ほどの穴がある盾。
【★1:穴あき練習盾】
【通してよいものを通します】
隊長は「捨てて走れ」と命じた。
だがリュカは、城門前へ盾を立てた。穴があるから弱いのではない。何を通すか選べるなら、穴は欠点ではなく境界だ。
「市民と味方と、光と空気は通せ。傷つけるものは一つも通すな」
小さな盾へ、彼は一度だけ命じた。
命令を口にした途端、盾の穴から市街の音が聞こえた。泣く赤ん坊、避難を促す鐘、瓦礫をどかす槌。守りたいものが具体的になるほど、木板の縁は明るくなる。
隊長はリュカの前へ立とうとしたが、彼は首を振った。この盾は力の強い者ではなく、何を通すか決めた者に従っている。曖昧な「全部を防げ」では、市民まで閉じ込めてしまう。
敵砲が放たれる。
白熱した光柱が空を裂く直前、木盾の輪郭が城壁いっぱいに広がった。見た目は薄いまま、中央の穴も巨大になる。避難する人々はその穴を何事もなく走り抜け、風も朝日も通った。
魔導砲だけが、透明な面へ激突した。
爆音は壁の向こうで止まり、熱も衝撃も市街へ一滴も届かない。砲撃に混ぜられた呪い、飛び散った破片、敵兵の殺意まで、穴の手前で光の砂になる。
爆光の向こうで、敵兵が放った降伏勧告の紙だけは穴を通り、リュカの足元へ落ちた。言葉そのものに害はないと盾が判断したのだ。彼は紙の裏へ「避難完了。拒否する」と書き、穴から風に乗せて返した。
選別は怒りではなく、害の有無だけで行われていた。
敵は三射、四射と重ねた。盾は揺れない。
最後には砲身の方が過熱し、遠い丘で折れた。城門を抜けた最後の子どもが振り返り、穴越しにリュカへ手を振る。彼も笑って手を上げた。
木板は元の大きさへ戻った。中央の穴から見える空だけが、青く澄んでいる。
【保護対象を選別し、敵対作用のみ完全遮断】
【神話級SSR《選別城壁アイギス・ホロウ》――世界初の無損害防衛を達成】