空いた背番号
怪我で試合に出られない選手は、観客席からチームを見るのが苦しかった。
代わりに入った後輩が活躍するたび、自分の居場所がなくなる。
仲間は「待ってる」と言うが、本音では戻ってほしくないかもしれない。
治療院でもらった透明ポンチョを着ると、競技場の白線より外にいる間だけ姿が消えた。
選手はベンチの後ろへ立った。
試合前、仲間たちが話している。
「あの人、戻ったらまた先発かな」
「今の形、崩れるよね」
胸が冷えた。
別の選手が言った。
「でも、戻って競争しないと、本当に強くなったか分からない」
後輩は黙っていた。
やがて、
「戻ってきてほしい。怖いけど」
と答えた。
「ポジション取られるかもしれないのに?」
「怪我する前のあの人を超えたい。いない人に勝っても、自分で信じられない」
選手は感動するより先に腹が立った。
自分は誰かの成長の物差しではない。
戻れば当然、元の席へ座れると思っていた自分にも気づいた。
試合中、後輩がミスをした。
ベンチから、以前の自分なら怒鳴った指示が飛びそうになる。
透明なまま口を開き、やめた。
後輩は自分で修正し、次のプレーを成功させた。
試合後、ポンチョを脱いで姿を見せた。
仲間たちが固まる。
「最初からいた?」
「今の形が崩れる、から」
後輩が顔を覆った。
選手は聞いた本音を責めなかった。
「復帰しても、先発を返せとは言わない。競争させて」
後輩は、
「負けません」
と答えた。
リハビリは思ったより長引いた。
復帰戦では途中出場。
以前なら屈辱と思っただろう。
白線を越える前、ベンチの後輩と拳を合わせた。
試合ではうまく動けず、決定機も外した。
それでも一つの球を追い、後輩へつないだ。
得点したのは後輩だった。
透明ポンチョは治療院へ返した。
選手は時々、仲間の本音を知りたくなる。
だが競争相手が怖いと言うのも、戻ってほしいと言うのも、同じ口から出てよい。
空いた背番号は、誰かが守ってくれる席ではなかった。
戻った自分が、今いる仲間ともう一度取り合い、分け合う場所だった。