空島から落ちて皇帝の前へ

「魔力ゼロの落下者など、雲に食わせれば跡も残らん」

空島公は笑い、水城颯真の足枷へ重石を結んだ。

颯真が転移したのは、帝都の上空を漂う貴族専用島だった。

彼は島の端で、地上へ投棄される廃魔石を見つけた。毒を含む石は雲を抜け、下の農村へ雨として降る。その事実を皇帝へ知らせようとしたが、空島公に捕らえられ、侵入罪で投下刑となった。

島の縁からは地上が小さく見える。

公爵家の客たちは葡萄酒を飲み、重石の数へ賭けていた。

颯真の視界に能力が現れた。

《落下先指定》

一度だけ、自分の落下が終わる場所を指定できる。

安全な草原を選べる。

海でもいい。

だが颯真は、公爵の背後にある帝都地図を見た。中央の皇宮には今日、諸侯会議が開かれている。

「終点は、皇帝陛下の会議卓」

能力を使い、空島から身を投げた。

身体は下へ加速する。

雲へ入った瞬間、景色が裏返った。

颯真は地上へ落ちる代わりに、空島の内部を突き抜けた。隠されていた廃魔石倉庫、偽造帳簿、鎖で働かされる地上民が、透明な軌跡となって彼の後ろへ連なる。

さらに空が折れ、皇宮の天井が水面のように開いた。

諸侯会議の真ん中へ、颯真は立った姿勢で着地した。

会議卓は砕けない。足枷と重石だけが卓上へ落ち、続いて空間から廃魔石の山と帳簿が吐き出される。

最後に空島公の紋章旗が落ち、皇帝の茶器へ突き刺さった。

宮廷転移計が警報を鳴らす。

《移動距離・測定不能》

《経路・空間外》

水晶柱は数字を出し切る前に縦へ裂けた。

諸侯たちは剣へ手を伸ばしたが、皇帝は颯真の足元に転がった帳簿を読む。

そこには汚染された村の名と、公爵家の利益が一行ずつ対応していた。

空島公が追跡転移で会議室へ現れ、「その男を殺せ」と叫ぶ。

しかし皇帝はすでに玉座から立っていた。

彼は颯真を侵入者として見なかった。

自分の会議卓へ証拠を届けた、誰より正確な使者として正面から迎えた。

公爵の命令を待っていた近衛兵たちも、次々と颯真の側へ向き直った。