窓際のカップ麺

凪沙はカップ麺を持って、窓際に座った。

ローテーブルには書類が広がり、片づける気力がなかった。床に置けばこぼしそうなので、窓枠をテーブル代わりにする。湯を注いで三分。曇ったガラスの向こうに、向かいのマンションの明かりが並んでいた。

二階の角部屋では、誰かがカーテンを閉めた。四階のベランダには洗濯物が残っている。明るい窓の数だけ、それぞれの夕食があるのだろう。凪沙の部屋も外から見れば、ただ一つの四角い明かりにすぎない。

今夜は、同期との食事を断った。残業があると嘘をついた。本当は、みんなの近況を聞くのがつらかった。昇進、同棲、資格試験。嬉しい話ばかりなのに、自分だけ同じ場所に立っている気がして、笑顔の準備ができなかった。

カップ麺のふたを開ける。三分を少し過ぎ、麺が柔らかくなっていた。凪沙は窓を少し開けた。冷たい空気と、遠くの車の音が入る。

グループチャットには料理の写真が届いている。空いた席に鞄を置き、「次は凪沙も」と書かれていた。

返事をせず、麺をすすった。汁の匂いがカーテンにつきそうだと思う。でも、明日になれば薄れる。欠席した自分への気まずさも、少しずつ薄れるかもしれない。

向かいの四階で、残っていた洗濯物を誰かが取り込んだ。一枚落としそうになり、慌ててつかんでいる。見知らぬ人の不器用な動きに、凪沙は親近感を覚えた。

みんながきれいに生活を進めているわけではない。窓の内側は、外からは見えないだけだ。

凪沙はグループチャットへ、湯気で曇った窓の写真を送った。「今日は家でこれ」とだけ書く。

すぐに返事がなくてもよかった。参加できない夜の自分も、消さずに置いておきたかった。

麺は伸びていたが、温かかった。凪沙は窓を閉め、書類を端へ重ねる。今夜の席はここでいい。

グループチャットに一つずつ既読がつき、最後に猫のスタンプが返ってきた。凪沙は文章を足さなかった。窓の外の明かりも、画面の小さな反応も、近づきすぎない距離でそこにある。

汁は半分残した。全部飲み干さなくても、温まるには足りていた。