箱の中の警報音

空港近くの物流倉庫で、箱が鳴り始めた。

午前一時五十分、犬塚祥子は輸出便のX線検査を待つ医療機器の列にいた。白い箱の中から、三秒おきに短い電子音がする。周囲の作業員は冗談を言ったが、音が鳴るたび、列の誰もが少しずつ箱から離れた。送り状には携帯型の測定器とあり、リチウム電池の申告欄は「なし」になっていた。

「目覚まし時計でも混じったんだろう」

係員は先へ流そうとした。だが祥子は箱を列から外した。音は一定ではなく、少しずつ間隔が短くなっている。電池残量の警告か、機器の異常かもしれない。鳴っているから安全とも、まだ煙がないから無事とも言えなかった。

封を切れば輸出用の検品がやり直しになる。彼女はまず発送元へ電話した。夜間担当者は「電池は抜いた」と答えたが、製品名を聞き返すと黙った。測定器には本体用とは別に、時計保持用の小型電池が内蔵されている。

祥子は型番の取扱表を取り寄せた。音のパターンは、電源が入ったままセンサーが接続されていないときの警報だった。輸送中にボタンが押され、起動したらしい。危険な発熱は確認されていないが、申告なしのまま航空便へ載せることはできない。締切を守るための小さな見逃しが、空の上では取り返せなくなる。

責任者は「電源だけ切って、申告を直せ」と急いだ。祥子は箱の表面温度を測り、周囲と差がないことを確認してから、発送元の承認を記録した上で開封した。本体は緩衝材の中で斜めになり、突起した電源ボタンが箱の内側へ当たっていた。

ボタンを切り、再び押されないよう保護枠を追加する。内蔵電池の種類と容量を調べ、危険物申告を訂正した。古い送り状の「なし」は二重線で残し、誰が変更したか分かるよう署名した。

締切には間に合わなかった。だが次の便なら、正しい申告で載せられる。責任者は舌打ちせず、短くうなずいた。

箱を閉じると、警報音は止んだ。倉庫に静けさが戻った直後、検査列の後ろから別の電子音が聞こえた。

祥子は時計を見ず、その箱の申告欄を先に見た。夜は、鳴ったものから順に理由を求めていた。