約束のない午後

芙美は、予定のない休日が苦手だった。

誰かと会う約束があれば、休む理由になる。予約した美容院、映画のチケット、友人とのランチ。けれど何もない午後に横になると、自分だけ世界から外れているようで、すぐ掃除や勉強を始めた。

今週の日曜は、手帳が白かった。前夜までに予定を埋めようと、展示会やワークショップを検索したが、どれも予約しなかった。人混みに出る体力がない。それでも朝九時には起き、シーツを洗い、作り置きを三品作った。昼前にはもう疲れていた。

ソファへ座ると、向かいの壁に手帳が開いている。午後の欄だけが白い。芙美はその空白に耐えられず、「図書館」「買い物」「一週間の振り返り」と書き込んだ。休みを予定に変えれば、時間を捨てずに済む。

外出の支度をするため立ち上がる。クローゼットを開けたところで、めまいがした。床に手をつき、しばらくしゃがむ。朝から水をほとんど飲んでいなかった。

コップ一杯の水を飲み、ソファへ戻る。スマートフォンには、友人たちの休日の写真が並んでいた。海、カフェ、ライブ会場。休みの日にも人生を進めているように見えた。芙美の午後は、何も写せない。

手帳を膝へ置く。「図書館」に斜線を引く。「買い物」にも。「振り返り」にも。全部消すと、また白い欄が現れた。

その白さを見ていると、何かを書き足したくなる。昼寝でも、休養でもいい。名前をつければ、予定として認められる。

芙美はペンを持ったまま迷い、手帳を閉じた。白いままにする。休む予定すら書かない。午後を説明する欄を、自分に見せないことにした。

カーテンを少し開けると、洗ったシーツが風に揺れている。乾いたら取り込まなければならない。作り置きの容器も洗う必要がある。生活は、休んでいる間にも小さな用事を増やしていく。

芙美はソファに横になり、スマートフォンを別の部屋へ置いた。眠くなれば眠る。ならなければ天井を見る。それだけにした。

夕方、目を覚ますとシーツの影が長く伸びていた。午後に何をしたか聞かれれば、答えられることはない。それでも芙美は、白い欄を埋め直さなかった。乾いたシーツを取り込む前に、もう五分だけ横になった。