紋章は最後尾に宿る

鬼灯ユキトの胸からギルド紋章が消え、谷底の新人へ移った。

《守護紋章》

在籍メンバーのうち、現在HPが最も低い者へ全ギルド強化の起点を移します。

強化範囲:起点から五十メートル。

「置いていけ!」

団長は谷で脚を負傷した新人を見捨て、ボスの山頂へ進んだ。だが距離が五十メートルを越えた瞬間、全員の攻撃強化と防御強化が消える。

紋章は新人の胸で光っている。

「強化が必要なら、あいつを除名しろ」

団長が命じる。除名すれば次にHPの低い者へ紋章が移る。ユキトは拒んだ。

「最弱を切るたび、次の最弱が生まれるだけだ」

団長は自分で除名を実行する。新人の紋章が消え、次は傷を負った治癒師へ。治癒師も除名。次はユキト。

三人を切っても、強化範囲は山頂へ届かない。団長は最後に、自分以外を全員外そうとする。

ユキトは谷へ戻った。除名された新人を背負い、治癒師と一緒に山を登る。ギルド外なので強化はない。それでも、紋章を持たない者同士で歩ける。

残ったギルド員の一人が団長を見限り、脱退して谷へ下りる。次も。そのたび団長側の紋章は、HP満タンの彼へ近づくが、強化を受ける仲間が減っていく。

山頂へ着いたとき、団長は一人。紋章は胸にあるが、起点だけではギルド強化は発生しない。

谷から登った元メンバーたちは、強化なしでボスの拘束具を外した。討伐ではなく救出クエストだった。

《守護紋章の対象ギルド員:一名》

《強化対象:一名》

救出されたボスは、山を守る古い巨鳥だった。団長たちが強化を得るため傷つけ、討伐対象に見せかけていた。

除名された新人が巨鳥の脚の包帯を巻く。紋章はもうない。それでも治癒は成功した。

ユキトは、ギルドの中心を示すものが旗でも団長でもなく、今いちばん助けを必要とする者へ移る設計だったと理解する。

元メンバーたちは紋章を作り直さなかった。代わりに、最後尾の位置を全員の地図へ常時表示する設定を選んだ。

《ギルド機能を停止――紋章は最も弱い者を切り捨てるためでなく、全員がその者のそばへ戻るための目印です》