結末を漏らした編集者
発売一か月前、長編ミステリーの犯人が公式アカウントに投稿された。
〈衝撃の結末! 真犯人は主人公の妹です〉
投稿したのは小早川弥生。編集局長の娘で、担当編集の肩書だけ持ち、原稿を最後まで読んだこともなかった。
「話題になってるから成功でしょ」
弥生は悪びれずに言った。
「古庄さん、作者にはうまく説明しといて」
「削除しても転載されています」
「じゃあ、結末を変えてもらえばいいじゃない。作家って編集の言うこと聞く仕事でしょ」
作者は電話に出なかった。私は新幹線に乗り、地方の仕事場まで謝罪に行った。玄関先で二時間待ち、ようやく開いた扉の向こうで、作者は初校を段ボールへ詰めていた。他社へ移す準備だった。
私は言い訳をせず、販促をすべて止め、書店へ事情を伝え、ネタバレを逆手に取らない静かな再設計を提案した。帯から煽り文句を消し、「知っていても騙される構造」だけを伝える。作者は返事をせず、私の企画書を受け取った。
翌週、作者が出版社の会議室へ来た。
編集局長は私より先に口を開いた。
「担当の古庄が投稿管理を怠りまして」
作者は一通のメールを読み上げた。投稿時刻の直前、弥生が母親へ送ったものだった。
〈犯人まで出したら絶対バズる。葉月が止めるけど無視していいよね〉
返信は〈数字が取れれば私が守る〉。
取締役たちの顔色が変わった。過去の宣伝費を弥生の会社へ流していた件も監査で見つかり、編集局長はその場で解任された。
弥生は腕を組んだ。
「でも先生、私が担当から外れたら困りますよね」
作者は私へ契約書を差し出した。
「古庄葉月さんが担当である限り、次作もこの社で書きます。彼女でなければ、今日で全作品を引き上げます」
社長は即答した。
「古庄さんを編集長代理に任命します。小早川弥生は守秘義務違反、業務妨害、虚偽説明により懲戒解雇です」
弥生のスマートフォンが震えた。
届いた社内メールの件名は、彼女にも最後まで読めた。
〈担当変更ではなく、雇用終了のお知らせ〉