翼を切る婚礼
飛行試験に落ちた翼人エアナは、地上王との同盟婚を命じられた。婚礼では「地上に尽くす証」として翼を切られる。
雲上宮の切羽台で、エアナは拘束帯に腕を通した。突風に負けて訓練艇を落とした日、仲間たちは彼女を庇って負傷した。もう飛べない自分を、空の仲間が必要とするはずがない。試験後、エアナの飛行章は剥がされ、共同格納庫の名札も裏返された。実際には事故調査のためだったが、彼女には追放の印に見えた。翼を失えば、空で築いた関係まで地上へ落ちるのだと思っていた。地上王側は彼女の部屋へ石の家具を運び込み、窓には風除けの板を打った。飛べない未来を選ぶのではなく、空を思い出せない暮らしまで用意されている。エアナは抵抗すれば三人の傷を無駄にすると信じ、刃台へ自分から歩いた。
刃が上がる。その前に、飛行士ラザンが自分の安全帯を刃台へ掛けた。
「預ける。次に飛ぶとき二人分締める」
雲鯨飼いキリエは観覧棚の隣を空け、柔らかな鯨毛の座布団を置いた。
「乗れない日はここで見る。空を見る席まで失う決まりはない」
塔の外では天文学者モモカが観測窓を全開にし、脱出用の星帆を風へ広げて待っていた。
「風向きが変わるまで畳まない。夜になれば星で帰れる」
地上王の使者が三人を捕らえようとする。ラザンは安全帯の記録石を起動した。試験艇の翼布には、地上側が同盟を迫るため切った跡が残っている。エアナは失速後も艇を町から逸らし、負傷者を三人に抑えていた。
婚礼は破談。使者は拘束された。
それでもエアナは拘束帯を外せなかった。細工がなくても、突風を怖がった自分はいる。次の飛行で凍りつけば、三人は空へ先に行ってしまう。
「私は、もう飛べないかもしれない」
ラザンは安全帯を外さず、キリエは座布団へ温石を足し、モモカは星帆の索を塔へ二重に結んだ。
「飛ばない帰り道も空に作る」とモモカ。
エアナは自分で拘束帯を解いた。翼を使う日も、見上げる日も、星帆に乗る日もある。安全帯、空席、開いた窓。三人が別々の空を守り、彼女の帰る高度を一つに決めさせなかった。