聖遺物は一グラム重い
雪灯りの聖堂晩餐で、ラウレンティア・ペリアは聖遺物のすり替え犯とされた。
婚約者カルドゥス・ネージュが、偽物だという銀の聖杯を掲げる。
「保管役の彼女が本物を売った。信仰を汚す女との婚約を破棄する!」
聖杯は見た目も紋章も完璧だった。ラウレンティアは動揺せず、聖堂との貸借契約を取り出す。
「返却時、契約秤が重量を記録します。貸出時は四百二十一グラムでした」
契約を聖杯の下へ敷くと、現在の重量が光る。四百二十二グラム。さらに保管責任の移管時刻は昨夜、カルドゥスへ渡った直後だった。
「一グラムなど誤差だ!」
「聖銀は温度で重さが変わりません。契約秤に誤差もありません」
証拠は一グラムの差だけ。だが偽物には、継ぎ目を埋める鉛が一グラム使われていた。
ラウレンティアは聖堂の宝物を守るため、古い目録をすべて量り直していた。司祭たちは一グラム単位の記録を神経質だと笑い、カルドゥスも『妻には向かない性格だ』と嫌味を言った。だが聖遺物を狙う者が真似できないのは、豪華な紋章ではなく小さな数字だ。彼女の几帳面さは欠点ではなかった。誰かの都合に合わないだけで価値を低く見積もられていたのだ。光る四百二十二という数字を見ながら、彼女は自分自身の評価まで一グラム軽く扱うのをやめた。
カルドゥスは聖杯を置き、急に優しい声を作る。
「本物の場所を教えれば、告発を取り下げて婚約も戻す」
「知らない場所を教えれば、次は嘘の罪ですか?」
聖堂領を守る雪公エイヴォル・キルネが、一人だけ長椅子から立った。彼は聖杯に触れず、契約の数字を確認する。
「保管責任の移管と重量差は認める。彼女を拘束する根拠はない」
そしてラウレンティアへ、毛皮の手袋を外した手を差し出した。
「雪公領の宝物庫を総点検してほしい。数字を一グラムも軽んじない管理者が必要だ」
「公爵夫人の席まで点検対象ですか?」
「空席だ。座るかどうかは、最も厳しいあなたの監査に任せる」
ラウレンティアは初めて小さく笑った。元婚約者へ背を向け、一グラムより確かな意志で雪公の手を取った。