花嫁のない顔
地下聖堂には、七人の花嫁と七つの棺が並んでいた。
棺の中は、教会へ土地を寄進した死者たちだ。司教は身寄りのない女を死者と結婚させ、妻の財産として畑や家を接収してきた。拒めば「夫への不貞」で処刑される。
司祭ユルサは、婚姻台帳を開いた。
強制された聖婚を一件取り消すたび、執行司祭の顔から、人に見分けられる特徴が一つ消える。教会はその代価を恐れ、過去百年、一件も婚姻を解いていない。
「最初の花嫁、ロカ」
ユルサが解除文を読む。棺へ巻かれた赤糸が切れ、ロカの首から所有印が消えた。
同時に、ユルサの左眉が肌へ溶けた。
二人目。右眉が消える。
三人目。耳の形が滑らかになり、髪の下に穴だけが残る。
司教ステグが扉を閉ざした。
「顔を失えば、誰もお前を人と認めない」
「顔があるから、彼女たちを人と認めたのですか」
四人目の婚姻を解く。鼻梁が沈み、呼吸は頬の小さな裂け目から漏れた。
花嫁たちは自由になった腕で、次の者の鎖を外す。
五人目。頬の輪郭が消え、顔が白い卵のように平らになる。
六人目の解除文を読む直前、ユルサは台帳へ顔を近づけた。視界が失われると分かっていたから、最後の二件を暗記する。
「解きます」
瞳と瞼が一緒に溶けた。
闇の中で、七人目のすすり泣きを聞く。司教が台帳を奪い、紙を破る音がした。
だが文は覚えている。
ユルサは最後の花嫁と、棺の死者の名を正確に唱えた。強制、脅迫、同意なき誓約。婚姻を無効と宣言する。
最後の赤糸が切れた。
同時に、ユルサの唇が消えた。
解除文の末尾だけが、閉じた肉の奥でかすかな振動になる。
七人の花嫁は棺を押し倒し、地下から地上へ続く扉を開けた。市民の前へ、偽の婚姻台帳と接収印が運び出される。ステグは逃げようとして、自由になった女たちに取り押さえられた。
ロカがユルサの手を引いた。
「あなたも行きましょう」
地上の光は見えない。風の匂いも、顔の皮膚で感じられない。それでも彼女は歩いた。
人々は救った司祭の顔を見ようとして、息を呑んだ。
そこには眉も耳も鼻も頬も目も口もない。ただ滑らかな白い面と、法衣だけがある。
七人の花嫁は自分の名を取り戻した。
彼女たちを解いた女だけが、二度と誰の記憶にも顔を残せない姿になっていた。