薬箱を閉じる曜日
眞白は父の薬箱を、曜日ごとに詰めていた。
朝、昼、夜。錠剤を小さな区画へ移すたび、母が横から確認する。
「水曜の夜、眞白が電話してね。金曜は病院へ取りに行って。日曜にまた一週間分を作って」
薬箱の蓋には、母の字で〈眞白担当〉と貼られていた。父が退院した日に書かれ、それから半年、眞白は仕事帰りに週三回実家へ寄った。
一度だけ木曜に行けないと伝えると、母は薬箱の空いた区画を写真に撮り、〈お父さんが困っています〉と送った。父はまだ飲む時刻でもないのに、眞白は会議を切り上げた。区画が空くたび、眞白の予定まで空けられていた。
「今日で、この詰め替えはやめる」
母が驚いて手を止める。「飲み間違えたらどうするの」
眞白は鞄から、薬局でもらった一包化の見本を出した。日付と服用時刻が袋ごとに印刷され、配達と残薬確認も頼める。
「来週から薬局にお願いした。私は日曜に電話するだけにする」
「家族が見たほうが安心でしょう」
「家族が疲れて間違えるより、仕組みにするほうが安心だよ」
父は黙って薬袋を眺めた。「字が大きいな」と言う。
眞白は薬箱の区画から錠剤を戻しながら、父へ袋の切り方を説明した。母には、飲み忘れが続いた場合の薬局と訪問看護の連絡先を渡す。
母が〈眞白担当〉のシールを剥がそうとして、途中で爪を止めた。
「日曜の電話は、してくれるのね」
「する。でも薬を飲んだかだけじゃなく、普通の話もしたい」
父が「競馬の結果でもいいか」と笑った。眞白は「五分までなら」と答えた。
詰め終えた最後の箱は、次の配達までの三日分だけだった。眞白は蓋のシールを自分で剥がし、粘着の跡を布で拭く。
母はその横へ、薬局の電話番号を書いた紙を貼った。眞白の名前ではない。
帰るとき、父が水曜の電話を念押ししなかった。次に眞白がかけるのは日曜日。薬箱を開けるためではなく、父の声を聞くためだ。
眞白は空になった水曜の区画を見て、蓋を閉じた。曜日を一つ返すだけで、一週間が少し自分のものへ戻った。