補助監督の告白
私は、その紙が細波史緒のものではないと知っていた。
全国模試の監督補助として教室後方に立っていたとき、主任監督の蓮見野静香先生が、史緒の机の脇へ小さなメモを落とすのを見たからだ。
試験終了直前、先生は予定どおりメモを拾った。
「細波さん、これは何ですか」
公式が並んでいた。史緒は青ざめ、知らないと繰り返した。首席の生徒が、試験前に史緒が紙を折っていたと証言する。
私は手を挙げた。
「その前に、監督記録を確認してください」
蓮見野先生は私をにらんだ。新人教師の勘違いだと言い、史緒の答案を封筒へ入れようとした。
監督補助には、試験運営研修のため胸元カメラの装着が義務づけられていた。映像は試験本部へ自動送信され、私にも削除できない。
本部長が教室へ来て映像を再生する。
開始三分前。蓮見野先生がメモを袖口に隠している。試験中、史緒の机へ近づき、わざと落とす。そのあと首席生徒へ目で合図していた。
史緒は一度もメモを見ていない。それどころか、紙が落ちたとき、椅子を引いて踏まないよう避けていた。
胸元マイクには、試験前の廊下での会話も残っていた。
『細波が特待になれば、あなたの評定一位が崩れる』
蓮見野先生。
『先生が拾えば、誰も疑いません』
首席生徒。
蓮見野先生は、私が違法に撮影したと叫んだ。本部長は研修要項を示す。録画については全受験者と監督者へ事前通知され、教室入口にも掲示されている。先生自身が確認欄へ署名していた。
首席生徒は泣き出し、先生に逆らえなかったと言った。
私は史緒へ謝った。すぐ止めるべきだったが、試験を混乱させず映像を確保するため、本部へ無線で連絡していたのだ。
本部長は史緒の答案を新しい封筒へ入れ、不正なしの印を押した。蓮見野先生と首席生徒の答案・監督資格は調査対象として別封筒へ移される。
史緒が震える手で受験票を受け取る。
私の胸元カメラの録画終了音が鳴った瞬間、教室でいちばん後ろに立っていた目が、いちばん前で作られた嘘を終わらせた。