触れた物を凍らせる少女の掌火油
少女リラザは、手袋を三重にはめていた。
それでも薬屋《赤い指先》の椅子へ座ると、木の座面に白い霜が広がった。
「弟が今日、生まれます」
店主コウへ告げた声は、うれしさより怖さで震えている。
リラザは生まれつき、素手で触れたものを凍らせた。母から「赤ん坊を抱いて」と手紙が来たが、彼女は十年間、誰とも手をつないでいない。家を出た日も、見送りの母へ手を振ることしかできなかった。
「力を消す薬はありますか。今日だけでいい」
「消す薬はありません」
少女の肩が落ちる。
「でも、熱を先に触れさせる薬ならあります」
コウが出したのは、赤い油の小瓶だった。
「掌火油。手の内側へ塗ると、触れる直前に薄い温かさを一枚挟みます。効くのは三回」
「三回だけ?」
「赤ん坊を抱くには、両手で一回。下ろすのに一回。あと一回は、好きに」
リラザは慎重に手袋を外した。指先から冷気が漏れ、カウンターの水差しが凍る。
油を一滴ずつ両掌へ擦り込む。赤い光が皮膚の線へ沿って広がった。
コウは温めた卵を差し出した。
「試すなら、これで一回」
少女は首を振る。
「三回しかないから、試さない」
「割れたら?」
「弟で失敗しないために来たのに、怖がって一回捨てたくない」
彼女は自分の力を誰より知っていた。
そこでコウは卵を戻し、代わりに自分の手を差し出す。
「これは回数に数えません。薬を塗っていない手首へ触れてみて」
リラザの指が、おそるおそる薬師の手首へ触れた。
凍らない。
白い息も霜も出ない。薄い陽だまりのような熱が、二人の皮膚の間へ灯る。
少女は息を呑み、次に笑った。
「温かい」
「その感覚を覚えて、行ってください」
彼女は銅貨を置き、小瓶を胸へ抱えて産院へ走った。
夕方、使いの鳥が薬屋の窓へ手紙を落とす。
――弟を抱けました。三回目は、母と手をつなぐのに使いました。
――次の給金で、もう一本買います。
手紙には、小さな赤ん坊の掌形が墨で押されていた。
コウがそれを店の壁へ飾ると、入口で鈴が鳴る。
三重の手袋をした、別の小さな影が立っていた。