返却された骨壺
母の骨壺を返しに来たのは、中身が母ではなかったからだ。
葬儀社の応接室で、私は白い壺を机に置いた。帰宅後に蓋を開けると、灰の中から知らない指輪が出てきた。別人の遺骨と取り違えたに違いない。
「保管庫を確認させてください」
私は声を大きくし、廊下にいる別の遺族にも聞こえるようにした。騒ぎになれば、会社は評判を恐れて折れる。これまで二つの式場で同じやり方が通じた。
支配人は青ざめた顔で断った。遺族以外は入れない規則だという。私は遺族なのに、と声を荒らげた。
壺の封印紙は切れていなかった。受け取ったあと、自分で蓋を開けたなら破れるはずだが、湯気で剥がして戻したと説明した。支配人が「その方法を、なぜ知っているのですか」と訊いたので、インターネットで調べたと答えた。もう一つ、引換票の重量より壺が三百グラム重かった。湿気を吸ったのだろうと言った。
本物の遺族には、葬儀社から事前に別室で事情が伝えられていた。私はその存在を知らないまま、消費生活相談員を名乗る男と向き合った。私は支配人へ、慰謝料か保管庫の確認かを選ぶよう迫った。
男が引換票を裏返した。
「亡くなった方の生年月日は?」
私は答えた。打ち合わせ資料で覚えた通りに。
「では、火葬場へ同行した親族の人数は?」
言葉に詰まった。
支配人が壺の封印紙へ薬液を垂らす。正規品なら浮かぶ紋章が現れず、代わりに家庭用プリンターのインクが滲んだ。
警察官だった相談員が蓋を開けた。灰の中から指輪、金歯、腕時計の裏蓋が次々に出てきた。いずれも、この一か月に別の式場で紛失届が出た遺品だった。
私の鞄からは、複製した封印紙と、複数の葬儀予定表が見つかった。参列者のふりをして控室へ入り、骨壺や形見から貴金属を抜いていたのだ。
今日は取り違えの被害を訴え、保管庫へ入るために壺を持ち込んだ。三百グラム重いのは、盗品を詰めていたからだった。
母の骨壺を返した遺族ではない。
被害者たちの遺品を隠した骨壺を、自分から捜査員へ返した加害者だった。