退学札を返す日

フェリナ・コールの机には、退学予定の灰札が置かれていた。

能力測定が何度やっても【総合適性:3】だったからだ。

測定科首席のラウド・ヘイルは、灰札を指で叩いた。

「装置は公平だ。低い者が残れば、学院全体の評価が下がる」

フェリナは測定室の助手として、毎朝水晶の位置を直し、魔力線のねじれを解いていた。彼女が触れた装置は安定し、ほかの生徒の結果は鮮明になる。けれど自分を測るときも無意識に装置を整えてしまうため、その働きは「機器側の正常動作」として消えていた。

退学前の最終測定で、新任技師が疑問を持った。

「今日は、フェリナさんに室外へ出てもらいます」

扉が閉じる。

ラウドが水晶へ手を置いた途端、表示が乱れた。首席の紋が獣の絵へ変わり、属性欄が逆さに流れる。次の生徒も、その次も測れない。ラウドは装置を叩いた。

「故障だ!」

技師はフェリナを呼び戻した。

彼女が枠へ指を添えると、震えていた魔力線が静まり、水晶は透明になる。何度も見過ごされてきた小さな調整だった。

監査盤は過去の測定記録まで開いた。高得点を出した生徒の頁には、必ずフェリナが直した魔力線の印がある。ラウドが首席になった日も、水晶の歪みを彼女が事前に除いていた。

ところが助手欄は空白だった。測定が正常なら、整備者の名を書く必要はないという規則だったからだ。異常が起きたときだけ責任者として名を残す仕組みになっている。

新任技師は規則書を閉じた。

「成功を無記名にし、失敗だけ個人へ負わせれば、評価は低く見えて当然です」

ラウドは装置の公平さを繰り返したが、その装置を公平にしていた人間を排除しようとしていた。

フェリナは退学の灰札を手に取る。破りはしない。測定台の上へ置き、装置が何を見落としたかを忘れないための札にした。

新式監査盤が、測定結果ではなく測定そのものを成立させた働きを追跡する。学院中の成績表から光が伸び、フェリナの指先へ集まった。

【測定校正寄与率:99%】

ラウドは公平だと言った装置の前で、自分の結果すら彼女に支えられていたと知った。

技師は灰札を裏返し、金の測定章へ変える。

【測定科・資格更新】

首席校正生:フェリナ・コール

全項目再測定:ラウド・ヘイル