透明な血の牢番
看守たちが牢へ油を撒いたとき、サヴィエは鉄格子の内側にいた。
処刑命令は出ていない。反乱の証人を夜のうちに焼き、事故として片づけるつもりなのだ。囚人は十二人。鎖につながれ、逃げる場所はない。
サヴィエは自分の手首を噛み切った。流れた血は床を這い、囚人たちの足首へ輪を作る。彼には、誰かに訪れる死を自分の血へ移す力がある。
一人の死を引き受けるたび、その者の顔が血管の内側へ浮かび、代わりにサヴィエ自身の顔が少しずつ透明になる。
最初の火矢が窓から入った。
入口に近い老人へ移るはずだった死を呑み込む。サヴィエの腕の血管に老人の顔が現れ、苦しげに目を閉じた。彼の左頬から色が消える。
二本目、三本目。
火が藁へ燃え移る。囚人が咳き込むたび、サヴィエは死の印を血へ引き入れた。胸、腹、首。皮膚の下に十の顔が浮かび、彼自身の鼻や唇はガラスのように透けていく。
牢の奥で、バロが鎖を引いた。
「俺たちを守れば、お前が死ぬ」
「異形は処刑記録に数えられない」
サヴィエは笑った。もう口の輪郭が薄く、笑えたかどうか分からない。
看守長が扉の覗き窓から油壺を投げた。炎が天井まで立ち上がる。
十二人全員の死が同時に降りてきた。
サヴィエは胸を開き、血を霧にして牢全体へ広げた。赤い霧が囚人を包み、火と煙を彼の身体へ運ぶ。
熱で皮膚が透き通る。
肺には十二人分の窒息が入り、心臓には十二人分の恐怖が鳴った。血管の顔々が一斉に目を開ける。
鉄格子が熱で曲がり、バロたちは外へ這い出した。看守たちは、炎の中に立つ透明な群像を見て逃げた。
朝、囚人たちは全員生きていた。
牢の中央には、赤いガラスで造られた人の形が残った。内側を十二の顔が泳いでいる。老人、女、兵士、バロ。どれも救われた者の顔だった。
バロは透明な肩へ触れた。
「サヴィエ。どれがお前だ」
十二の顔が彼を見た。
だが、その中にサヴィエの顔は一つもない。
ガラスの頭には目も口もなく、名を呼ばれたことを示すものは、胸の奥で一度だけ赤く明滅した血だけだった。