遅れる時計の工房

トリスタフの時計は、街の鐘より遅れて動いた。

競売商会では、正確さを誇る宝飾時計が人気だ。彼の無骨な置時計は取引室の隅にあり、売り物にもならない。売上寄与は9%。競売長は針を見比べて嘲った。

「遅れる時計を直せない者が時計師を名乗るな」

トリスタフは振り子を止めた。取引室の周囲には魔力が渦巻き、普通の時計は少しずつ進んでしまう。彼の時計はあえて遅れる歯車を組み、魔力による進みと釣り合わせていた。競売の締切が各席で揃っていたのは、その不格好な補正のおかげだった。

競売長は最新の宝飾時計へ交換した。針は街の鐘とぴたり重なり、来賓は感心した。ところが高価な魔道具が会場へ運ばれると、魔力で時計ごとの進み方が変わった。落札宣言より前に締切った席と、後まで入札を受けた席が生まれ、契約は無効になった。

怒った商人たちが代金を引き揚げる。競売長は書記を責めたが、書記はトリスタフの止まった時計を抱えた。

「遅れていたのではありません。ここだけ正しい時を刻んでいたんです」

会場中央の《取引同期輪》が光った。落札品の華やかさではなく、公平な締切によって成立した手数料を誰が支えたか示す輪だった。宝飾時計の光は互いにずれ、無骨な振り子の線だけが全席を結んだ。

競売長が針を戻そうとしても、輪は動かない。

《見た目の正確さではなく、取引の同期が価値を生む》

書記が過去の落札札を床へ並べると、すべてに同じ振り子印が押されていた。取引成立の瞬間、トリスタフの時計が各席へ時刻を送っていた証だ。宝飾時計へ替えた日の札だけ印がばらばらで、誰が勝者か決められない。競売長の高価な時計は美術品としては値が付いたが、会場の取引を成立させる力は持たなかった。

トリスタフは工房へ戻り、競売長席の背後へ自分の時計を据えた。今度は隅ではない。会場の全員が、その遅れて見える針へ合わせて入札札を上げた。

無効になった競売をやり直す日、商人たちはトリスタフの置時計が動くまで入札札を上げなかった。無骨な振り子が全席を結ぶと、締切は争いなく訪れ、落札代金が再び商会へ戻る。宝飾時計の職人は敗北を認める代わりに、装飾を補正機構へ干渉させない方法を教わりたいと申し出た。トリスタフは美しさを捨てず、正しい時へ従わせる設計を認める。競売長は中央席から外され、会場ごとの時計を合わせる係になった。以前は遅れと笑った針へ、自分が毎朝頭を下げることになった。

《真価確定:トリスタフ 実売上寄与91%》

《売上順位:圏外→首位/役職:時計修理係→王都競売運行長》