道の駅の焼きたてパン
白波路隼は、雨のため道の駅へ車を停めた。
視界が白くなるほどの豪雨で、運転を続ける気になれなかった。
休憩所には同じように足止めされた人が数人いる。
パン売場の女性が、閉店前の棚を片づけていた。
隼は端に残った丸パンを一つ買う。
「今、焼き直しますか」
「雨が止むまでいるので」
「それなら、ちょうど焼きたてが出ます」
女性は奥を指した。
十分後、胡桃パンが小さな籠で運ばれてきた。
こんな天気なのに焼いたのかと訊くと、
「生地は雨を知らないので、時間になれば膨らみます」
と女性は答えた。
隼は窓際の席へ座り、胡桃パンと珈琲を頼んだ。
パンを割ると、白い湯気と小麦の甘い香りが出る。胡桃は香ばしく、外側は薄く硬い。
雨粒が大窓へ流れ、駐車場の車を歪ませていた。
「長距離ですか」
女性が売場から声をかける。
「父の家へ。片づけに行く途中です」
「急ぎます?」
「今日中には」
「家は逃げません」
「でも、明日は仕事で」
「では雨が弱まるまで、仕事よりパンを急いで」
隼は笑った。
父が施設へ移り、空いた家を整理する。家具や服を処分する予定で、何から手をつけるか一覧まで作っていた。
けれど雨の中を無理に走っても、着いた頃には疲れているだろう。
まず温かいものを食べる。その順番でもよかった。
女性は、棚へ残ったパンの端を小皿へ載せた。
「試食です」
「買ったばかりですけど」
「端は売りにくい。味は同じ」
皮の部分は、中心よりよく焼けて香ばしかった。
三十分後、雨音が小さくなった。
大窓の向こうで雲が切れ、濡れた山へ白い霧が上がる。
隼は残ったパンを紙袋へ入れてもらった。
「お父さまの家で、休憩に」
「食べるのは僕だけです」
「家の中で食べれば、匂いは二人分くらい残ります」
車へ戻ると、紙袋の底がまだ温かかった。
雨上がりの道路は黒く光り、山から土と杉の匂いが流れてくる。
父の家へ着いたら、すぐ片づけず、まず湯を沸かそう。
焼きたてのパンを一つ置ける場所から、ゆっくり始めればよかった。