鉱毒を止める黒煉瓦
鉱山町ドロアでは、雨のたび廃鉱石の黒い泥が斜面を流れ、共同泉へ入った。鉱夫の家では水を煮ても金属臭が消えず、子どもたちは遠い川まで桶を運んだ。
治療師ローデは、鉱山を閉じる話をせず、廃石場の下だけに黒煉瓦の防壁と濾過溝を造る案を出した。
「今流れ込む一本を止めます。町の全てを一度に直すとは言いません」
費用は鉱夫の賃金から引かず、町を出る鉱石十箱につき銅貨一枚。空箱と工具には課さない。門の秤が箱数を刻み、徴収額の三分の二を煉瓦、三分の一を濾過砂に固定する。比率を変えるには住民集会で二晩続けて同じ決議が必要とした。
鉱主ゼヴァンは声を低くした。
「輸出税なら商売が鈍る。鉱夫にも一部払わせろ」
「泥は賃金ではなく、売った鉱石の量だけ増えます」
ローデは共同泉の黒い布を見せた。濾した一桶分で、布は鉄色に染まっていた。
翌日、鉱夫たちは給金を守られた礼ではなく、自分の家の水を取り戻すため溝を掘った。鉱主も、箱数が誰にでも見える以上、隠して評判を落とすより正しく払うほうを選んだ。煉瓦職人は焼き損じを持ち込み、洗濯屋は濾過布の交換日を担当した。
徴収初月、鉱主は輸出箱を町外れで積み替え、門の秤を避けようとした。鉱夫の一人が気づいたが、ローデは密告の褒賞を出さなかった。代わりに秤を坑道口へ移し、箱が生まれた時点で自動的に札が落ちる仕組みにした。人を疑い続ける制度ではなく、隠しにくい制度へ直したのだ。ゼヴァンも次の月からは札の束を自分で会計板へ掛けた。秤の鍵は鉱夫と町が一本ずつ持った。
豪雨の夜、黒泥が斜面を走った。煉瓦壁へ当たり、横の沈殿池へ曲がる。濾過溝の出口から流れた水は、まだ飲めるほどではない。だが共同泉へ落ちる筋は透明だった。
朝、ローデは泉の水を白い椀へ汲んだ。金属臭はしない。子どもが恐る恐る指を入れ、笑った。
泉の脇に黒煉瓦の小板が置かれた。
――鉱石を出した数だけ、水を守る。
その文字の上を、最初の透明なしずくが滑り落ちた。