鍋底の星、炒飯
水晶塔の書記クォンテは、冷えたご飯を鍋へ入れるのを見て不安になった。
「炊きたてを使わないのか」
「炒飯は、少し冷えた方がほぐれます」
境界町の食堂主は、中華鍋へ油を引き、溶き卵を流した。黄色が固まりきる前にご飯を入れ、鉄のお玉で素早く返す。からん、からん、と乾いた音が厨房へ響く。
クォンテは塔の法令文を書き写す仕事をしている。三か月かけた税制案が、昨日「古い形式にこだわりすぎて読みにくい」と差し戻された。紙束を捨てる気にも、書き直す気にもなれず、机へ伏せたまま町へ出てきた。
鍋へ焼豚、葱、なるとが加わる。醤油が縁から回しかけられた瞬間、焦げた香りが一気に立った。
皿の炒飯は、米粒が一つずつ光っていた。クォンテが匙ですくうと、卵と葱が均等に混じる。口へ入れれば、表面はさらりとしているのに中はふっくらし、焼豚の甘い脂と胡椒が後から追いついた。
「昨日の米とは思えない」
「昨日の米だからです」
「古くなったものが、向いている料理もあるのか」
「水分が落ち着いて、油をまといやすいんですよ」
食堂主は鍋底に残った米粒を、お玉で軽くこそげた。焦げた粒が小さな星のように跳ねる。
クォンテは税制案のことを話した。書き直せば三か月が無駄になると言うと、食堂主は首を傾げた。
「材料がもう揃ってるなら、最初より早いでしょう」
「文章は炒飯ではない」
「でも、冷めてからほぐれることはありそうです」
クォンテは笑い、二杯目を頼んだ。待つあいだ紙束を開き、最初の三頁を外す。難しい前文を一段落へ縮め、表を先へ移す案を書いた。昨日まで削れなかった文が、不思議と軽く離れた。
添えられた紅生姜を最後に噛むと、酸味が頭の奥まで鮮やかにした。
湯気はまだ、頬の近くに温かく残っていた。
食べ終えた皿には油の艶だけが残った。厨房では次の鍋が鳴り、葱と醤油の香りがまた広がる。
塔へ戻る夜道で、クォンテは差し戻しの紙を胸へ抱えた。それは失敗の束ではなく、今日の火へ入れる冷えたご飯のように思えた。