鐘が三回鳴る場所
郷土史家だった雨宮灯李の祖父は、宝の在りかを謎にした。
〈鐘が三回鳴る場所、その下に鍵がある〉
従兄の詠人は寺を指した。
「三回忌に鳴らす鐘だ」
灯李は首を振る。
「教会かもしれない。祖父は西洋史も研究してた」
叔母は玄関の呼び鈴を押した。
「ここも一回鳴る。三回押せば条件成立」
「自分で鳴らしていいなら謎にならない」
「遺言に自然発生とは書いてない」
鍵の先にある財産についても意見が割れた。
「祖父の未発表史料なら博物館が買う」
「金庫の鍵かもしれない」
「宝箱の鍵よ」
「先に鍵の相続割合を決める?」
「歯を一つずつ分ける気?」
「合鍵を作ればいい」
「謎を解く前から複製するな」
一族はすぐ三班に分かれた。寺班は鐘楼の床下を測り、教会班は神父へ事情を話し、留守番班は家中のベルを三回ずつ鳴らした。
「寺の鐘は大みそかに百八回です」と住職。
「そのうち最初の三回の下では?」
「鐘の下はいつも同じです」
「では三回目だけ掘ります」
「境内を回数で区切らないでください」
教会では詠人が尋ねた。
「三回鳴らす特別な鐘は?」
「結婚式なら何度も鳴らします」
「祖父に隠し結婚?」
「宝探しから家系調査へ飛ぶな」と灯李。
家では電子レンジ、目覚まし時計、仏壇の鈴まで候補になった。三回音がするたび、床板を叩く。
「炊飯器が三回鳴った!」
「炊けただけ」
「米の下に鍵?」
「祖父の暗号を炊き込みご飯にするな」
夕方、全員が庭へ戻った。成果はなく、寺への謝罪と教会への寄付だけが増えていた。
そのとき、物置から古い自転車が倒れた。
ちりん、ちりん、ちりん。
灯李は顔を上げた。
「祖父ちゃん、散歩へ出る前、いつもベルを三回鳴らしてた」
自転車の真下を調べると、スタンドのゴム栓から小さな鍵が出た。
鍵は祖父の机の引き出しを開けた。中には郷土資料の寄贈証書と、家族全員分の温泉旅行券。
詠人が券を数えた。
「宝、均等にある」
叔母は自転車を起こした。
ベルが一回鳴った。
もう誰も掘らなかった。