閉店札の汽車
玩具店「ポケット王国」は、閉店セールの札を貼ったまま十二月を迎えた。値引きしても売れない品ばかり残り、店長は「クリスマスまで持てばいい」と言っていた。
皆川恭平と土岐は、倉庫から古い鉄道模型を出した。毎年ショーウィンドウに飾っていたものだ。今年は電源代も惜しいと中止になったが、閉店札の横があまりに空いて見えた。
「動かなかったら戻す」
土岐が線路を磨いた。皆川は小さな駅舎を組み立てた。昨年、皆川が高価な機関車を落としたとき、土岐は客の前で彼を怒鳴った。それ以来、二人で展示を作るのは初めてだった。
線路を楕円につなぎ、コードを変圧器へ差す。汽車は一周目のカーブで止まった。皆川が車輪を拭き、土岐がレールの継ぎ目を詰める。二周目は駅の手前で脱線した。
「俺が触ると、また壊しますよ」
「触らない店員が一番いらない」
「もう店員もいらなくなるでしょう」
土岐は返事をせず、皆川へ小さなドライバーを渡した。機関車の底を開くと、歯車に綿埃が絡まっていた。二人でピンセットを使い、一本ずつ取り除いた。
三度目、汽車はゆっくり走り出した。閉店札の下をくぐり、玩具の町を回る。外にいた子どもがガラスへ顔を寄せた。親は値札を見たが、店には入らなかった。
「売上にはならないですね」
「見てた」
「見るだけなら」
「去年のお前も、壊したあと毎晩見てただろ」
皆川は機関車の修理代を、今も給料から少しずつ返している。店が閉まれば、残りをどうするか決まっていない。
二人は展示の灯りだけを残し、店内を消灯した。土岐は余った人形を一体、駅のホームへ立たせた。青い前掛けをした店員の人形だった。台座の裏に、皆川の名字を書く。
「何ですか、それ」
「倒れたら直す人」
汽車が通るたび、人形の影が揺れた。店はクリスマスを越えられないかもしれない。皆川は閉店札を剝がさなかった。ただ、展示タイマーを翌朝九時に合わせた。
帰り道で雪がちらついた。皆川は店の鍵を土岐へ返しかけ、結局、自分の鍵束へ戻した。明朝、汽車より先に来て、人形が倒れていないか確かめるつもりだった。