降伏文書から消えた一人

敗戦国の聖女騎士エリダは、降伏文書の末尾に「戦利品」として記されていた。

白い鎖が左腕の呪印から文書へ伸び、征服軍の将軍に絶対服従する。旧王は自分の命と引き換えに、彼女を差し出したのだ。

若き将軍クレインは、占領式で文書を読み上げた。

「第三条、城門を開放。第四条、武装解除。第五条――聖女騎士エリダの所有権を、勝者へ譲渡する」

広場に跪くエリダの前へ、将軍が歩み寄る。

副官が所有印を渡した。

「閣下の印を呪印へ重ねれば、彼女は最強の近衛になります」

クレインは印を受け取った。敵国随一の聖女騎士を得れば、反乱も暗殺も恐れる必要がない。

彼は印をエリダの腕へ押さず、降伏文書の第五条へ打ちつけた。

紙が赤く光る。

次の瞬間、将軍はその条文を剣で横一文字に切り裂いた。

白い鎖が弾け、広場へ散る。エリダの腕から呪印が消えた。

「降伏文書を破棄なさるのですか」と副官が叫ぶ。

「第五条だけだ。国境と賠償は交渉する。人間は戦利品に数えない」

旧王が顔を上げた。

「その女は我が国の盾だ。自由にすれば貴様へ刃を向けるぞ」

「それも彼女の権利だ」

クレインはエリダの剣を返した。柄を自分へ向け、彼女がすぐ抜ける渡し方で。

「私を斬るなら今がいい。止める命令はもう届かない」

エリダは剣を受け取った。

広場中が息を止める。

だが彼女はクレインを斬らず、旧王の足元へ白い鎖の欠片を投げた。そして城門の外へ歩いていった。

その夜、征服軍の宿営地を旧王派の兵が襲った。クレインは降伏条件を守るため、城内での略奪を禁じ、兵を分散させていた。天幕へ敵が迫る。

最初の矢が飛んだとき、白い外套が将軍の前へ翻った。

エリダが剣で矢を払う。

「私はあなたの国の騎士ではない」と彼女は言った。

「知っている」

「あなたの所有物でも」

「もちろんだ」

「では、私があなたの隣に立つ理由を尋ねますか」

「聞かせてほしい」

エリダは剣を地面へ一度置いた。服従の降伏ではない。次いで拾い上げ、柄頭をクレインの剣へ軽く触れさせる。対等な騎士同士の誓いだった。

「私を差し出した王ではなく、私を一人と数えた将軍を守る。これは私が選んだ、最初の忠誠です」

二本の剣が並んで抜かれた。

降伏文書の第五条には穴が空き、そこにもう、彼女の名はなかった。