隣室の残量

鳥飼は、壁の点検扉を開け、隣の倉庫へ通じる通風弁を全開にした。

冷たい空気が一気に流れ込み、中央表示の《生存可能時間 19:42》が上昇を始める。

吉良と雨宮は、互いの首に掛けかけた手を止めた。

《五分以内に、この室内の酸素残量を三十分相当へ増やせ。参加者は室外へ出てはならない》

それが規則だった。

三人分では二十分しかない。だから二人は、誰か一人が呼吸しなくなれば三十分になると考えた。主催者も、彼らが多数決か力で犠牲者を決める姿を待っていたのだろう。

鳥飼は開始前から、右壁だけが妙に冷たいことに気づいていた。床図には、この室の隣に同じ広さの《機材庫》がある。点検扉の奥の弁には封印がなく、《室間圧力調整》と書かれていた。

通風弁が開けば、参加者は一歩も外へ出ないまま、酸素を含む空気だけを隣室から招き入れられる。

表示が二十四、二十七、二十九分を越える。

雨宮が主催者へ叫ぶ。

「倉庫の空気を使っていいのか!」

返事はない。鳥飼は弁のハンドルから手を離さなかった。

《30:06》

警報が緑へ変わる。

《条件達成。三名を勝者とする》

吉良の手が力なく落ちた。

「一人を減らすしかないと思った」

「減らす対象を、人間に限定したからだ」

鳥飼は言った。生存可能時間は、人数を減らしても、酸素量を増やしても延びる。規則は後者を明記していたのに、恐怖が二人の目を互いへ向けた。

三枚の出口が同時に開く。主催者が望んだ血は一滴も流れない。

鳥飼は最後に通風弁を閉じ、点検扉へ戻した。

規則表示の下には三人分の消費速度と、室内容積から算出した残り時間が並んでいた。鳥飼は人数欄を変えず、容積欄だけが弁の開放と同時に倍になるのを見届けた。誰かの呼吸を止めるより、計算式のもう一方を動かす方が早く、しかも勝利条件を文字どおり満たしていた。

点検扉は工具なしで開き、弁には参加者側から操作するための取っ手まで付いていた。

「室外へ出るなとは言われた。室外を入れるなとは、言われていない」