雪崩の底で鳴る鈴
鉱山道を雪崩が呑み込み、坑夫六人が消えた。
救助隊は半日掘ったが、雪の下は音を吸い、魔力探知も鉱石に乱される。日没までに見つけなければ凍死する。
山案内人イオは、雪崩の跡へ耳を当てた。何も聞こえない。助けを求める手が、何メートル下にあるのか分からない。
彼の職業欄に《初回十連》が残っていた。山で運に頼るな、と師匠に教わり、使わずにいたものだ。だが運ではなく、必要な道具を得るために一度だけ引く。
毛糸、火口箱、携帯食など九品。最後に、小指ほどの真鍮の鈴が出た。
《呼応鈴/説明:助けを求めて上げられた手のそばで鳴ります》
イオは鈴を一度振った。
手元の鈴は鳴らない。
代わりに、雪原の右手から、ちりん、と音が返った。
そこを掘ると一人目の手袋が見えた。救助隊が引き上げる間に、今度は斜面の奥で二つ目の音。三つ目は倒れた松の下。鈴は、まだ動く手の位置でだけ鳴った。
五人を救い出したとき、日が山の端へ沈んだ。
「あと一人だ」
誰もが鈴を見る。しかし音はない。
イオは雪崩前の坑夫名簿を思い出した。六人目は片腕を失った老坑夫で、義手は上げられない。
彼は鈴を雪へ置き、両手で包んだ。
「助けを求めるのは、手だけじゃない。生きたいと思っている場所で鳴れ」
遠く、崩れた坑口の下から、かすかな音がした。
六人目を引き上げた瞬間、夜の山へ救助隊の歓声が響く。真鍮の鈴には新しい文字が刻まれていた。
老坑夫の胸は止まりかけていた。救助隊は掘った穴を風よけに変え、交代で体を温める。イオは鈴を握ったまま、呼吸が戻るまで名前を呼び続けた。やがて老人の義手がわずかに動き、雪面を叩く。今度は道具ではなく本人の音だった。六つの担架が並んだのを見て、隊長はようやく帰還の笛を吹いた。
山を下りる途中、老坑夫はかすれた声で「片手でも、呼んでよかったのか」と尋ねた。イオは鈴を彼の毛布へ置く。「生きたいと思うのに、資格はいりません」。老人は義手ではないほうの手で鈴を握り、今度は自分から一度だけ鳴らした。
《神話級〈生存者の鈴〉/呼応条件:救助を諦めていない命》