面会人はお一人ずつ

 市立病院六〇八号室で、三人の面会人が鉢合わせた。

 刑事の法月臨平は、重要証人の折壁を保護しに来た。

 マフィアの蛇草ベルナルドは、その証人へ口止めをしに来た。

 泥棒の下鴨羽澄は、資産家の折壁が身につける骨董時計を盗みに来た。

 ベッドでは、九十六歳の折壁翁が目を閉じている。

「先に話を聞く」と臨平。

「もう話す必要はない」とベルナルド。

「腕だけ少し借ります」と羽澄。

 三人は互いを家族、弁護士、医療関係者のどれかだと思った。

 臨平がベッドへ近づく。

「昨夜見たことを覚えていますか」

 翁は目を開けた。

「白いのが三つ、赤いのが二つ」

「人数ですか」

「花だ」

 ベルナルドは暗号だと考えた。

「その白い三つは、どこに置いた」

「窓辺」

「隠し場所は窓辺か」と羽澄。

「何を探している」と臨平。

「形見です」

「本人は生きています」

「先に受け取る流儀もあります」

 羽澄は翁の手首へ触れた。時計は見当たらない。

「例の物はどこです?」

「温室」と翁。

「温室に証拠を隠したのか」と臨平。

「処分しないとな」とベルナルド。

「勝手に処分しないでください」

「お前こそ警察か」

「今さら気づきました?」

 臨平が手帳を出す。ベルナルドは点滴台を盾にし、羽澄はカーテンの陰へ隠れた。

「折壁さんを狙った目的は」と臨平。

「しゃべりすぎた口を閉じる」とベルナルド。

「時計を外すだけ」と羽澄。

 翁が怒って起き上がる。

「時計なら温室の自動散水機につけた! 蘭の時間を守るためだ!」

 三人は一瞬止まった。

 そこへ看護師の実相寺澪が駆け込んだ。

「皆さん、面会室を間違えています。警察が探している折壁さんは八〇六号室。こちらは園芸家の折壁先生です」

 臨平は病室番号を見直した。六〇八と八〇六を逆に読んでいた。

 ベルナルドも同じメモを逆さに持っている。

 羽澄だけが小声で尋ねた。

「骨董時計は、本当に温室?」

 臨平が手錠を出した。

「次の面会先は取調室です」

 翁は三人へ蘭の水やりを頼もうとしたが、看護師に止められた。