首飾りが通った三つの扉

婚礼前の伯爵邸で、侍女の星名こよみは花嫁の真珠首飾りを盗んだと責められた。

首飾りは彼女の前掛けの隠しポケットから出た。

「孤児を雇ってやった恩を、盗みで返すのね」

花嫁の叔母、御堂芙美子は親族の前でこよみを平手打ちした。

「警察へ出されたくなければ、今すぐ盗んだと認めなさい」

芙美子は発見状況を細かく書き、〈首飾りは宝物庫から一度も持ち出されず、侍女が内部で盗取〉と署名した。

こよみは腫れた頬を押さえながら、首飾りの留め金を見た。

伯爵家の宝飾品には紛失防止の微小札があり、屋敷の扉を通るたびに時刻と通過方向を記録する。婚礼保険の条件で、芙美子が「使用人を信用してはいけない」と設置させたものだ。

家令が履歴を読み取る。

首飾りは午前九時、宝物庫から東廊下へ出た。通過者の家族証は御堂芙美子。九時七分、芙美子の客室へ入る。九時三十分、洗濯室へ入り、そこでこよみの前掛けへ移された。

こよみはその時間、花嫁の髪を結っており、婚礼写真に映っている。

「私の証を誰かが持ち出したのよ!」

「家族証は指紋が一致しなければ扉を開きません」

家令が答える。

さらに芙美子の発見報告には、前掛けの〈右内側の隠しポケット〉と書かれていた。首飾りを取り出す前、誰もポケットの位置を知らなかった。こよみ自身も、芙美子が今朝「便利だから」と縫い足したことを知らされていなかった。

目的は、花嫁がこよみへ譲る予定だった小さな店を取り上げることだった。譲渡中止の書面も、芙美子がすでに作っている。

花嫁がこよみの前掛けを外し、新しい侍女章をつけ直した。

家令が警察官へ発見報告を渡す。

芙美子はこよみを追い出すため、以前にも銀器を隠しては「見つかった」と騒いでいた。使用人たちは孤児の娘へ疑いが向くのを恐れ、黙って弁償してきた。首飾りの履歴を見た料理長が、その銀器にも同じ微小札があると申し出る。家令の端末には、どれも芙美子の客室を通った記録が残っていた。

「御堂芙美子様。窃盗、暴行および証拠捏造の容疑で、逮捕状が執行されます」