駄菓子屋の百円余り
加賀見敦と瀬戸川駿は、四十歳を過ぎてから、子どもの頃の町を歩くことが増えた。
新しい店を探すわけではない。昔あったものが、まだあるか確かめるだけだ。
日曜、二人は小学校裏の駄菓子屋へ行った。
店は今も同じ場所にあり、軒先の赤い箱も、引き戸の鈴も残っていた。
ただ、店番は昔の老女ではなく、その娘だという女性だった。
「一人三百円までな」
敦が言う。
「小学生の遠足か」
「大人買い禁止」
二人は籠を一つずつ持った。
粉末ジュース、丸いガム、薄いカツ、梅味の紙。
値段は昔より少し上がり、包装はきれいになっている。
「これ、当たりつきだった」
「駿、当たりを店に持っていくの恥ずかしがった」
「敦が勝手に交換した」
「友情」
「横取り」
計算しながら選んだが、敦は二百円、駿は二百十円で止まった。
「まだ買える」
「欲しいものがない」
「百円余らせるの、子どもの頃なら犯罪」
「今は貯金」
女性は笑い、二人へ小さな紙袋を渡した。
近くの公園へ行き、ブランコの柵へ腰を下ろす。
薄いカツを開けると、ソースと油の濃い匂いがした。
「こんなに小さかった?」
「手が大きくなった」
「味は?」
「濃くなった」
「舌が弱くなった」
二人は粉末ジュースを水筒の水へ溶かした。
色は鮮やかなオレンジで、味は甘く、どこか粉っぽい。
子どもの頃には最高の飲み物だった。
「今でも、まあまあうまい」
「思い出補正込み」
「それも原材料」
話は、同級生の近況から、当時埋めたタイムカプセルのことへ移った。
「どこに埋めた?」
「校庭の隅」
「工事で掘られてる」
「中身、何だった?」
「覚えてない」
「じゃあ、もう開けたのと同じ」
答えの雑さに二人で笑った。
帰りに駄菓子屋の前を通ると、子どもが百円玉を握って棚を見ていた。
敦と駿は余った小銭を使わず、ポケットへ残した。
次に来たとき、また三百円から始めるためだ。
紙袋にはソースと砂糖、梅の酸っぱい香りが混じっていた。
何も取り戻せない町歩きでも、百円余った時間だけは、次の休日へそのまま持ち越せた。