骨竜の牧草地
「魔物の抜け骨を埋めると草が生える? 墓守にしか要らぬ技能だ」
辺土院の鑑定官は、ヴァジルへ無能印を押した。
【技能:《骨まき》――自然に抜け落ちた魔物の骨一本を埋めると、翌朝、その骨と同じ長さを半径とする草地が生まれる】
殺して得た骨には効かず、一日に一本だけ。ヴァジルは灰の荒野へ送られ、翼を失った老骨竜ハクガと暮らし始めた。
ハクガの身体は白い骨だけだったが、春になると古い骨が一本ずつ抜け、新しい骨へ生え替わる。ヴァジルは小さな指骨を埋め、周囲に生えた草を角羊へ食べさせた。草が増えると乳が取れ、乳を求めて小鬼の家族が来た。小屋が二つ、畑が三枚と、荒野に小さな集落ができた。夕方には骨竜の肋骨へ洗濯物が並んだ。
巡礼王サリエドが軍を率いて現れたのは、五年目の秋だった。
隣国の噴火で一万人が住む地を失い、冬までに放牧地が必要だった。だが灰の荒野は地図どおり不毛で、王はここを通過して南の森を奪う決断をしていた。
「草は村の周りにしかない。軍馬一万頭には足りぬ」
鑑定官が言う。
その夜、ハクガが大きく身体を震わせた。胸を支えていた古い肋骨が一本、月明かりの下へ落ちる。長さは城壁ほどあった。
老竜はそれを鼻先でヴァジルへ押した。長く一緒に暮らした彼には分かった。これは死ではない。新しい骨が内側ですでに育っている。
ヴァジルは難民と魔物たちに手伝ってもらい、荒野へ長い溝を掘った。肋骨を横たえ、灰をかぶせる。
《骨まき》。
翌朝、地平まで緑だった。
肋骨と同じ長さを半径に、柔らかな牧草が一夜で広がっている。軍馬が草を食み、角羊と並んだ。避難民は剣ではなく鎌を持ち、骨竜の影に冬小屋を建て始めた。
鑑定官が「竜の骨が大きかったからだ」と言う。
サリエドは南進の軍旗を降ろし、その布でハクガの新しい肋骨を磨いた。
「大きな骨を見れば、我らは武器か城壁にしただろう」
巡礼王は荒野の領印をヴァジルへ渡す。
「そなたは寝床と草にした。今日からこの緑を、魔物と人の共同領と定める」