『同じ添付、違う社名』
業務委託先を決めるプレゼン面接で、真柴航は二社の企画書を並べた。介護施設の夜勤負担を減らす運用案で、片方は鵜飼奈緒の小さな会社、もう片方は大手の白河企画だった。内容はほぼ同じだ。
大手側の担当、倉持恵が先に言った。
「当社案が流出した可能性があります。鵜飼さんの提出は締切直前でした」
奈緒は顔を上げた。
「私が三週間前に送った企画です」
航は受信箱を検索した。確かに奈緒からのメールは三週間前だが、宛先を間違え、外部コンサルタントへ送られている。そのコンサルタントは大手の選考支援も担当していた。
倉持は勝ち誇った。
「誤送信なら、当社は無関係です」
「CCを見てください」
奈緒が言う。誤送信メールのCCには、発注元の航が入っていた。航は受信時刻を確認している。添付ファイルのハッシュ値は、今日の大手案と一致した。違うのは表紙の社名だけだった。奈緒が確認用に埋めた白文字の会社略称も、大手版の余白にそのまま残っていた。さらに大手が作成したという市場調査の写真は、奈緒のスマートフォン固有の撮影番号を保っていた。質問されても倉持は撮影場所を答えられない。
「外部コンサルタントが参考資料として共有したのでしょう。私たちは正規に受け取った」
倉持は言い張った。
航は会議室予約の履歴を示した。大手とコンサルタントは提出一週間前に同じ部屋を予約し、件名を「鵜飼案移植」としていた。予約名は後から「提案打合せ」に変えられているが、変更前の件名が監査ログに残っていた。
倉持の顔から血の気が引いた。彼女は企画書を閉じたが、表紙だけが不自然に新しかった。本文には奈緒の試行錯誤まで残っていた。
「担当者の軽率な表現です」
「軽率なのは表現だけではありません」
航は大手の評価票を裏返した。
「白河企画を選考から除外し、鵜飼奈緒さんの会社と契約交渉に入ります。誤送信で盗まれた企画でも、最初の受信者は私です」