『封筒の二つ目の折り目』
解雇通知の説明面談で、編集者の前に茶封筒が置かれた。
中には未発表作品の契約書のコピー。競合出版社へ流れたものと同じで、編集者の個人ロッカーから見つかったという。
編集局長は言った。
「自主退職なら、刑事告訴は見送る」
編集者は封筒に触れず、入れた覚えがないと答えた。
法務担当が、退職した契約管理者のファイルを開いた。名前は「二つ目の折り目.jpg」。
画像には、問題の契約書を入れた封筒が撮影されていた。中央に一度だけ折り目がある。机上の封筒には二本の折り目があった。
局長は笑った。
「持ち歩けば折り目くらい増える」
法務担当は添付されたスキャン記録を示した。最初の画像は、契約管理者が退職前日に資料保管庫で撮ったもの。封筒は証拠保全用として封印されていた。だが三日後、編集局長が保管庫から持ち出し、二時間後に返却している。
「中身を確認しただけだ」
その二時間の間、局長は第四会議室を一人で予約していた。同室の複合機では契約書が一部印刷され、封筒の画像も再印刷されている。印刷者番号は局長だった。
編集者のロッカーが開けられたのは、その翌朝。予備鍵の貸出記録にも局長の署名がある。
局長は「内部調査のためだ」と言い換えた。
退職者のファイルには、競合へ流れたPDFの情報も保存されていた。作成端末は編集者のものではなく、第四会議室の複合機。しかも紙をスキャンした際、二つ折りにした線が画像へ残っていた。
机上の封筒の二本目の折り目と位置が一致する。
「編集者が局長の番号を使った可能性がある」
法務担当は会議室予約の入室記録を表示した。局長の顔認証一件だけ。編集者は同時刻、著者とのオンライン面談に出席し、録画にも映っていた。
退職者が最後に保存したメールには、局長の動機があった。
――新レーベル失敗の責任を編集者へ移す。漏洩事件を作れば、担当作品と予算を回収できる。
法務担当は自主退職届を封筒へ戻した。
「解雇提案を撤回します」
局長が立ち上がった。
「私を疑うのか」
法務担当は二本目の折り目を指でなぞった。
「疑いではなく、印刷と鍵の記録です」
編集者の担当継続が承認され、代わりに局長の入館権限が停止した。