おすすめしない二人

城崎雫は、居酒屋のタブレットより先に会社の管理画面を開いた。

〈あなたへのおすすめ:橘大地 相性96%〉

「解散会でそれ出す?」と大地。

羽田野瑞希が覗き込む。

「雫と大地、まだ一位なんだ」

「だから算法が信用されなかったんだよ」

三人の〈キャンパス・メイト〉は、時間割、趣味、学食の好みから相手を紹介する学生限定の恋愛アプリだった。人気は出た。交際報告も届いた。だが内部テスト用の相性データが誤って公開され、誰が誰を閲覧したかまで流出した。三人自身の結果も拡散され、雫と大地は「付き合っているのに隠して運営していた」と決めつけられた。

二人は一度も付き合っていない。

「否定するほど怪しまれたね」と瑞希。

「相性九十六なら、付き合えばよかった?」と大地。

雫は焼き鳥の串を皿へ置いた。

「会社を救うために恋人になるの、利用規約にない」

笑ったのは瑞希だけだった。彼女は二人の間に何かあると思いながら、聞かないことで三人を保ってきた。漏れたデータには、瑞希が大地のプロフィールを百三十二回見た記録もあった。

「瑞希、春から相談員だっけ」

「結婚相談所。数字は参考にするけど、最後は本人に聞く」

大地は広告会社のデータ分析部へ行く。

「人が押したものから、次に押すものを当てる」

「懲りてない」

「懲りたから、当てた結果を運命って呼ばない」

二人が雫を見る。

「私は実家の果樹園。通販を手伝う」

「ITやめるの?」

「桃は閲覧履歴がなくても、熟れたら匂いがする」

瑞希がグラスを上げた。

「じゃあ、三人の相性は?」

雫が管理画面へ入力すると、〈算出不能〉と出た。会社が解散状態になり、チームデータが削除されていた。

会計後、大地が先に店を出た。瑞希は少し遅れて別の出口へ向かい、雫はアプリの公開を停止した。

登録者一覧で、瑞希の表示が〈退会済み〉へ変わった。大地のプロフィールには、最終ログイン一分前。おすすめ欄だけには二人の写真が並び続けている。

雫は画面を閉じた。四人席の向かいには二脚の空いた椅子があり、片方に大地の忘れた割り箸、もう片方に瑞希が剥がした会員シールが残っていた。相性の数字は消えても、どちらを先に片付ければいいかだけは、誰にも算出できなかった。