せりは根まで

東雲匠は、資格試験に三度落ちた。

一度目は勉強不足。二度目は体調不良。三度目の今回は、本気で準備した。模試では合格圏だった。それでも結果は二点足りなかった。

同じ試験を目指す勉強会の仲間には、「発表が遅れている」と嘘をついた。合格報告が並ぶチャットを開くたび、自分だけ結果待ちのふりを続けた。次回の集まりにも、仕事を理由に欠席すると決めていた。

雪の予報が出た夜、匠は居酒屋へ入った。客は一人。店主が冬限定の「せりと合鴨の小鍋」を火にかけた。

薄い鍋で出汁がふつふつ鳴り、鴨の脂の甘い匂いに、せりの根の土っぽい香りが混じった。緑の葉はすぐしんなりしたが、白い根は湯の中でも細く形を保っている。

匠は箸で根を持ち上げた。

「ここも食べるんですか」

「根が好きな人も多いです」

店主はそう言い、火を少し弱めた。

噛むと、根はしゃきしゃき鳴った。泥臭さに近い香りのあと、出汁を吸った甘さが出る。葉だけより、味が長かった。

不合格の二点は、努力が無意味だった証明ではない。けれど、惜しかったと慰められるのも怖い。次を受けると宣言して、また落ちるのはもっと怖い。

匠は試験結果の画面を開き、点数が見えるまま画像を保存した。勉強会のチャットへ貼る。

〈二点足りず不合格でした。結果待ちと言っていたのは嘘です。次を受けるかまだ迷っていますが、次回の復習会には参加させてください〉

送信した瞬間、退出したくなった。だが、一人が「来い」と返し、別の一人が次回の日付を送った。

合格したわけではない。四度目を受ける決心もついていない。それでも匠は、欠席予定を削除して日付をカレンダーへ入れた。

チャットには慰めより先に、間違えた問題を持ってこいという返事が来た。匠は点数の画像を削除せず、復習会の持ち物へ過去問を追加した。受験申込のページは、まだ開かなかった。

鍋の底に残ったせりの根をすくう。少し煮すぎていたが、中心にはまだ歯応えがあった。鴨の脂を含んだ熱い出汁が、根の先からゆっくり口へ広がった。