コンビニまで百八十歩
学校からコンビニまで、百八十歩だった。
彼女が転校すると決まってから、私たちは毎日数えた。
「今日は百七十六」
「歩幅広くしたでしょ」
「成長」
「四日で?」
校門を出て、信号を渡り、古いクリーニング店の角を曲がる。コンビニで肉まんを一つずつ買い、同じ道を戻る。
卒業までいると思っていた相手が、冬休み前にいなくなる。
理由は親の仕事。仕方ない。分かっている。
だから私たちは、寂しいとは言わず歩数の誤差で争った。
最後の登校日、雪が少し降った。
校門から数え始める。
一、二、三。
彼女はいつもより小さく歩いた。
「遅い」
「滑る」
「雪、積もってない」
「慎重派」
百八十歩を超えても、まだコンビニに着かなかった。
二百を過ぎたところで、私は気づいた。
「わざと?」
「何が」
「歩数増やしてる」
「記録更新」
彼女の声が震えていた。
私はさらに歩幅を小さくした。
二百五十歩で自動ドアが開いた。
肉まんは一つしか残っていなかった。
店員さんに半分へ切ってもらうことはできない。袋の上から割ると、餡が片方へ寄った。
大きいほうを彼女へ渡す。
「転校生特典」
「まだしてない」
「今日でしょ」
「放課後まではここの生徒」
彼女は小さいほうを取り直した。
「じゃあ公平」
コンビニ前で食べた。
湯気と雪が混ざり、どちらがどちらか分からなかった。
「向こうの学校、コンビニあるかな」
「全国にある」
「百八十歩?」
「測って送って」
彼女はうなずいた。
帰り道は歩数を数えなかった。
数えれば、学校へ戻るまでの残りが減っていくから。
校門前で、彼女が泣いた。
私も泣いた。
「毎日連絡する」
「三日で途切れる」
「じゃあ歩数だけ」
「何の」
「学校からコンビニまで」
転校後、最初に届いたメッセージは数字だった。
『四百十二歩』
新しい学校は、コンビニが遠いらしい。
私は返した。
『こっちは百八十。今日は百八十三』
それから毎日ではないが、ときどき数字を送り合った。
春、私が歩幅を広げると、学校からコンビニまでは百六十八歩になった。
少し成長し、少し距離が短くなった。
それでも、最後の日に二百五十歩かけた道だけは、今も一番長い帰り道として覚えている。