チンチラの白いグラタン
小田切茉莉江は、結婚式場の最後の照明を消して帰宅した。
今日は新郎新婦が席札の並びを何度も変えた。仲の悪い親戚、話しやすい友人、子どもの椅子。茉莉江は笑顔で表を直し続けたが、夕方には自分の名前をどこへ置けばいいのか分からない気分になっていた。
部屋では、チンチラのあられが砂浴びをしている。灰色の体が容器の中で何度も転がり、終わると何事もなかったように毛を膨らませた。
「いいね。リセットが上手で」
あられは鼻を動かした。
茉莉江は冷凍の海老、茹でたマカロニ、牛乳を出した。フライパンで玉葱と海老をバター炒めにし、小麦粉を振る。牛乳を注ぐと白いソースがゆっくり濃くなった。マカロニを混ぜ、耐熱皿へ移し、チーズとパン粉をたっぷり。
オーブントースターの中で表面が泡立ち、茶色い焦げ目が広がる。
熱い皿をテーブルへ置き、自分の名前を書いた席札を一枚作った。白い紙に〈小田切茉莉江さま〉。冗談のようだが、グラタンの前へ立てる。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます」
あられが金網をかじった。
「ご祝儀はいりません」
匙を入れると、焦げたチーズの下から白い湯気が溢れた。海老の甘さ、玉葱、バター、柔らかなマカロニ。口の中を火傷しそうになり、息を吹きかけてからゆっくり食べる。
今日、式の最後に新婦が「私たちより、私たちのことを考えてくれましたね」と言った。その言葉を、茉莉江は疲れの奥へしまい込んでいた。
「じゃあ今は、私のことを考える時間」
声に出すと、席札が少し本物らしく見えた。
食後、茉莉江はあられへ乾燥りんごを一片渡した。砂浴びの粉が鼻先についている。指で払うと、柔らかな毛が温かかった。
部屋には焼けたチーズとバターの匂いが残った。片づけは朝でいい。茉莉江は自分の席札を捨てず、冷蔵庫の扉へ貼ってから眠った。
あられは乾燥りんごを両手で持ち、誰の席順も気にせず齧った。茉莉江はその姿を見て、明日の朝食の場所まで決めなくていいと思う。焦げたパン粉の香りが、白いソースより長く部屋に残った。