ブロック解除は三十分

玲奈は午後六時きっかりに、父のブロックを解除した。

目的は一つ。実家に残っている本を、段ボール一箱だけ送ってもらうためだった。叔母を通すこともできたが、送り先の確認だけなら自分で済ませたかった。

〈玲奈です。本の箱について、六時半まで連絡できます〉

すぐに既読がついた。

〈やっと話す気になったか〉

玲奈は机の上に住所を書いたメモを置き、必要なことだけ送る。

〈青いテープの箱です〉

〈着払いで、この住所へお願いします〉

父から箱の写真が来た。青いテープが見える。

〈これか〉

〈そうです〉

ここで終わればよかった。父は続けた。

〈あのときお前が勝手に出ていかなければ、こんな面倒はなかった〉

玲奈の指が止まる。画面の上には、残り十八分と自分で設定したタイマーが表示されていた。

〈今日は荷物の確認だけです〉

〈親にその言い方は何だ〉

胸の奥で、昔の部屋のドアが閉まる音がした。玲奈は説明を書きかけて消す。分かってもらうための三十分ではない。

〈発送したら、叔母さんへ追跡番号を送ってください〉

〈今後の連絡も叔母さん経由でお願いします〉

父から電話が来た。玲奈は出ない。タイマーは残り五分。

やがて父が〈分かった。本は送る〉と打った。

玲奈は〈お願いします〉と返し、箱の写真を保存した。

六時半、タイマーが鳴る。玲奈は父を再びブロックした。胸は痛んだが、失敗したとは思わなかった。和解とは、いつでも扉を開けておくことではない。必要なときだけ、自分で時間を決めて開け、終わったら閉じることもできる。

父を最初にブロックした夜、画面には〈帰ってこい〉が二十件並んだ。返さなければ着信、切れば別の番号から電話が来た。玲奈は連絡を断つことでしか眠れなかった。そのため、解除する前に叔母へ開始時刻と終了時刻を知らせ、タイマーも置いた。父を信じ切れなくても、自分で決めた手順は信じられた。

翌日、叔母から追跡番号が届いた。玲奈は配送状況を確認し、空けておいた棚を布で拭いた。箱一つ分の場所だけを、自分の部屋に残した。