ポイントをつけ忘れた夜
葉月は会計を終えてから、ポイントカードを出し忘れたことに気づいた。
七百六十円分。付くはずだったのは七ポイントだけだ。それでも店を出てから、胸の中に小さな引っかかりが残った。戻って聞けば後付けできたかもしれない。でもレジには列ができている。
袋の中には、和風パスタと海藻サラダ、無糖のカフェラテ。昼間、取引先へ送るメールの宛名を一文字間違えた。すぐ訂正し、相手も気にしていなかったが、葉月は夕方まで何度も送信済みメールを開いた。
小さな失敗を見つけると、そこから一日全部が雑だったように見えてしまう。
部屋に帰り、パスタを温める。待つあいだにポイントアプリを開くと、次のランクまであと百八十三ポイントと表示された。七ポイントあっても大差はない。それでも、「忘れなければ」と思う。
海藻サラダのドレッシングを開けたら、切り口から少し飛び、袖についた。葉月はまた「あ」と声を出した。今日三つ目の失敗だ、と数えかけて、手を止める。
メールの宛名、ポイント、ドレッシング。どれも、明日の生活を壊さない。なのに頭の中では、失敗という同じ箱へ入れられ、重くなっていた。
葉月は袖を水で濡らし、染みを軽くたたいた。完全には落ちなかった。パスタを食べると、きのこの香りがした。温め時間はちょうどよく、麺の中心まで熱い。
今日うまくできたことを探すなら、これも数えていいのかもしれない。夕食を選び、持ち帰り、こぼさず温めた。
ポイントアプリを閉じ、レシートを折る。七ポイント分の損を取り戻す計画は立てなかった。袖の染みも、洗濯の日までそのままでいい。
一日を百点に戻す必要はない。七ポイント抜けたままでも、葉月は和風パスタを食べ終えた。
今日は、つけ忘れたものより、ちゃんと持ち帰ったものを見ることにした。
食後のカフェラテを飲むと、氷が小さく鳴った。葉月はその音を聞きながら、今日できたことを追加で探すのをやめた。良かった点を数えて帳尻を合わせなくても、失敗の少ない人間にならなくても、夜は終えていい。