一晩市場の折り畳み店
【退職七日目】
レミオ、王都巡業団の設営主任を辞める。
理由。赤い制服の肩が擦り切れるまで天幕を張り、終演後に解体し、移動先でまた張る生活に飽きたため。未読の緊急連絡、四十一件。すべて放置。
【退職十日目】
一晩市場で、折り畳み式の小店を購入。前の持ち主いわく「壊れても朝までに戻る」。安すぎて怪しい。
【退職十一日目・夜】
市場で開店。売るのは旅のお守り。客が料金箱へ硬貨を入れると、棚が自動で合う品を出す。私は椅子に座って見ているだけ。
酔客が柱へぶつかり、屋根が片側へ落ちた。直そうとしたが、店の骨組みが蛇のように動き、折れた箇所を自分で継いだ。布の裂け目も金糸が走って閉じた。
【退職十二日目・朝】
店は自分で畳まれ、箱の大きさになった。売上通知。
《昨夜分入金。宿代、朝食代、七日分の自由時間を確保》
大金ではない。「七日分の自由時間」という表示が気に入った。
同時に巡業団長から通話。
『西広場の大天幕が倒れた。今日の公演までに直せ。すぐ戻れ』
「もう主任ではありません」
『お前しか組み方を知らない』
「設計図を共有しなかったのは団長です」
『観客が待っている!』
「私も朝食を待っています」
『三倍払う』
「七日分の自由時間より安いです」
通話終了。着信拒否。
【同日・午前】
折り畳んだ店を宿の倉庫へ置く。箱の角に昨夜のへこみがあったが、見ている間に木目が盛り上がり、消えた。
市場は今夜も勝手に店を開き、勝手に売り、朝には戻るらしい。
隣の露店主から「今夜も市場へ来るのか」と聞かれた。私は倉庫の箱を指した。「店は行く。私は気が向いたら」。露店主はそれで納得し、眠そうに欠伸をした。巡業団では、一人欠けるだけで全員が責められた。一晩市場では、店主がいなくても店は立ち、壊れても畳まれるまでに直る。売上通知がもう一度届いたが、画面を伏せた。数字は自由を証明するために一度見れば足りる。
私は海辺の食堂で、焼き魚と温かいパンを注文した。急いで食べる必要はない。日誌を閉じ、二杯目の茶を頼む。
【予定】
なし。
それが今日いちばん重要な予定である。