七番卓の白い煙
焼肉店が満席になった午後七時、七番卓だけが白い煙に包まれた。厨房主任の葛西七瀬が客席へ出ると、ロースターの上で肉が焦げているわけではないのに、煙が横へ流れていた。
七番卓には小学生の子どもがいて、煙を面白がって手を伸ばしかけた。七瀬はまず網からトングを離させ、客には隣の卓で前菜を続けてもらった。席を移すだけなら早いが、原因の残った卓へ次の客を案内することになる。
店員は火力を下げ、客を別の卓へ移そうとした。七瀬は周囲の卓を見た。六番も八番も正常に煙を吸っている。全体のダクト故障なら一卓だけには起きない。
彼女は七番卓のガスを止め、網が冷えるまで客に手を触れないよう伝えた。吸煙口へ薄い紙を近づけても動かない。清掃担当に聞くと、昼に油受けを外し、汚れが落ちない箇所へアルミ箔を敷いたという。
油受けにはまだ熱い脂が残っていた。七瀬は濡れ布巾を近づけず、乾いた金属の道具だけを使った。水分が落ちれば蒸気がはね、顔をのぞかせている店員へ飛ぶ。周囲を下がらせてから、箔を一方向へゆっくり抜いた。
網が冷えてから内部を開けると、折れた箔の端が吸煙口へ吸い込まれ、弁のように張り付いていた。火をつけたまま引き抜けば、溜まった脂へ箔が触れ、炎が上がる可能性がある。七瀬は周囲の卓も止めず、七番だけを使用中止にして箔を取り除いた。奥のダクトに破片が残っていないことを鏡で確かめ、紙が一定方向へ吸われるのを見てから火を戻した。
客には焼き直した肉を新しい網で出した。煙はまっすぐ下へ消え、白いシャツにも匂いが残らなかった。
「大きな故障じゃなかったですね」
店員が安堵すると、七瀬は外した箔を見せた。「小さいから、火を止めずに触りたくなるの」
清掃表から「箔を敷く」という一文は消され、外した部品を元の形で戻す写真が貼られた。
七番卓が空いた直後、予約客がケーキを抱えて入ってきた。誕生日用の肉盛りを急いでほしいという。七瀬は新しい網を置き、まず吸煙口へ紙をかざした。