七草の名前
一月七日、明莉は七草粥を作った。
パックの中身を広げても、どれが何か分からない。芹と蕪くらいは見分けられるが、御形、繁縷、仏の座は自信がない。
台所へ来た父の嘉親も知らなかった。
「毎年食べてるのに」
「名前まで食べてない」
二人でスマートフォンの写真と比べる。葉の形が似ていて、ますます分からなくなった。
結局、全部刻んで鍋へ入れた。
白粥へ緑が散り、青い匂いが立つ。塩を少し振るだけ。
正月料理に疲れた胃へ、温かさがゆっくり落ちた。
「これは芹」と父が一枚を箸で拾う。
「刻んだあとに言っても」
二人で笑った。
翌年、明莉は七草を一種類ずつ小皿へ分け、名前を書いてから刻んだ。嘉親は覚える気がなく、去年と同じように訊く。
「これ何」
「繁縷。たぶん」
三年目には、二人とも芹と薺だけ確実に分かるようになった。
名前を全部覚えなくても、七日の朝になれば同じ鍋を囲む。
粥の湯気で眼鏡が曇り、窓の外には霜が白い。刻まれた七つの草はもう見分けられず、冬の土と春の芽の匂いだけが、一椀の中で静かに混じっていた。
四年目、嘉親は御形を見分けたと言い張った。明莉が調べると、ただの薺だった。二人は札をつけず、そのまま刻む。覚えることより間違えることが、七草の朝の決まりになっていた。食べ終えた鉢を庭へ持ち、残った根元を小さな土鉢へ植える。どれが育つかは分からない。数日後、緑の芽が一つ出た。名を当てず窓辺へ置くと、粥の湯気が消えた部屋に、早すぎる春の土の匂いがした。
芽は春まで育たず、途中でしおれた。嘉親は残念がり、明莉は鉢の土を庭へ返す。名も分からない根から青い匂いが一瞬立ち、来年の粥を先に思わせた。
鉢は空になったが、窓辺には丸い土の跡が残った。二人は拭かず、次の一月七日までの小さな暦にした。
その跡へ朝日が当たるたび、粥の白い湯気を思い出した。