三〇二号室の午後

マンションの共用ゲストルーム三〇二号が、日曜午後だけ二重予約になっていた。

私、比企理加は夜勤明けの仮眠に使うため、十二時から十八時まで取っていた。もう一件は、上階の住人、名取川紅の「親族訪問」。管理会社の戸祭さんは別日に振り替えると言ったが、紅さんは赤ん坊を抱き、「私はすぐ戻ります」と鍵を差し出した。

先月、私は上階の泣き声について管理室へ相談した。苦情というより、夜勤前に二時間眠れる場所がほしかっただけだが、紅さんには私が責めたように伝わったらしい。それ以来、エレベーターでも顔を伏せられていた。

二重予約を入れられたのは、戸祭さん、清掃担当の斎賀さん、紅さん。部屋には三つの手掛かりがあった。

ベッド脇には赤ん坊用の小さな籠。机には、私が病院で使う夜勤表のコピー。そして冷蔵庫には「紅さんへ」「理加さんへ」と二つの名前を書いたスープが並んでいた。

「戸祭さんが、予約を重ねたんですね」

彼は観念してうなずいた。

紅さんは、赤ん坊の夜泣きで近所に迷惑をかけたと悩み、実家へ帰ることまで考えていた。私は管理室へ「上の人も眠れていないはずだから、空いているゲストルームを昼寝に使えないか」と提案した。ところが戸祭さんは、それを紅さんへ伝える際、私の名前を伏せた。

今日、騒音相談の際に私が提出した夜勤表で空き時間を確認し、紅さんの休息枠を同じ部屋に重ねた。六時間の予約を二人で三時間ずつ使えば、どちらも眠れる。けれど直接頼めば、互いに遠慮して譲ると思ったという。

籠を用意したのは斎賀さん。スープは、紅さんが私への謝罪として作ったものと、私が上階へ渡そうと用意したものだった。どちらも鶏肉と生姜で、容器までよく似ている。

「私、うるさいって言われたんだと思ってました」

紅さんが目を潤ませる。

「私は、助けてって言われるのを待っていました」

そう答えると、赤ん坊が小さなくしゃみをした。

十二時から十五時は紅さん、十五時から十八時は私。鍵を三時間ごとに手渡すことにした。

先に眠った紅さんが戻る頃、私は二つのスープを温めていた。味見すると、どちらにも生姜が少し多い。

「次から容器に、名前だけじゃなく味も書きましょう」

私が言うと、紅さんは笑った。

「その前に、一緒に食べませんか」