三日だけの朝ごはん

「三日だけだから、気を遣わないで」

北原茜の部屋が漏水で使えなくなり、望月和真の家へ泊まることになった夜、二人はそう確認した。

和真は学生時代からの友人で、来客用の布団を出し、洗面台の棚を半分空けた。茜は迷惑をかけないよう、朝早く起きて二人分の朝食を作った。

これまでも週末に互いの部屋へ行ったが、夜になれば必ず帰った。歯を磨く音や、寝起きの顔まで知る三日間は、友達の境界を静かに薄くした。それでも二人は、《災難が終わるまで》という言葉を守った。

一日目はトースト。

二日目は卵粥。

三日目は、和真が茜より先に起き、味噌汁を温めていた。

「帰ったら、朝が静かになるな」

和真が言い、茜は「三日だけだもん」と笑った。

修理完了の連絡が来る。茜は借りたタオルを畳み、歯ブラシを捨て、枕元の充電器を鞄へ入れた。友達の部屋に生活の跡を残さないよう、来たときよりきれいにする。

玄関で靴を履くと、和真が小さな保冷袋を渡した。翌朝用のスープと、二人分のパンが入っている。

「二人分?」

「明日、持っていく」

茜の部屋で朝食を食べるつもりらしい。さらに袋の外ポケットには、次の土曜の朝市、その翌週の喫茶店、月末の料理教室の予約票が入っていた。

「もう泊めてもらう理由、ないよ」

「泊める理由はなくなった」

和真は茜のキャリーケースを持ち、空いた手を差し出した。茜が取ると、指を絡め、そのままエレベーターへ乗る。

「送るだけ?」

「朝ごはんを食べるまで」

茜は自分の予定表へ、翌朝だけでなく毎週日曜の《茜と和真の朝食》を入れた。最初の予定に、彼の家で使っていた自分のマグカップの写真を添える。

「これ、持って帰ってない」

「置いておいた」

「来客用?」

和真は首を横に振った。茜はつないだ手を握り直し、明日の朝に食べたい卵料理を一つ、彼へ注文した。和真は笑って《了解》と予定へ書き足す。

三日だけだから、気を遣わない約束だった。

三日が終わった朝、二人は泊まる場所ではなく、一緒に朝を迎える予定を残した。