三本の細い橋

王妃の衣装室で、若い裁縫師が裁断刀を滑らせた。

手の甲に、まっすぐな浅い切り傷が開く。血は多くないが、指を動かすたび傷の縁が離れ、縫えば七日は針を持てないと宮廷治療師が言った。

納品係スヴェンナは、救護箱の細い粘着布を三本取り出した。

「深くないなら、縁を寄せて橋をかけます」

治療師が傷の深さと指の動きを確かめる。腱には届かず、汚れもない。スヴェンナは傷をまたぐ向きに一本目を貼り、左右の皮膚をそっと寄せた。二本目、三本目を等間隔に渡す。

開いていた赤い線が、細い一本へ変わった。

裁縫師が人差し指を曲げる。

傷は開かない。

親指を動かす。

三本の橋は剥がれない。

包帯を厚く巻いた場合、袖口へ手が入らず、衣装の仮縫いは止まる。細い粘着布なら、手袋の下へ収まり、傷へ針も通さない。処置は二分四十秒だった。

衣装長は「そんな紙細工で治るものか」と笑った。治療師は、縫合用の針と糸を箱へ戻す。

「浅く真っすぐで、汚れていない傷ならこれで十分だ。深い傷に使わない判断まで含めて、正しい」

裁縫師はその日の作業を終え、翌朝も傷を開かずに王妃の袖を仕上げた。休業七日の見積もりは、休業零日へ変わった。

昼休み、治療師が三本を確かめても、傷の縁は寄ったままだった。出血は布一枚を汚しただけで止まり、縫合薬も麻酔香も不要。処置代は銅貨八枚、縫合なら銀貨十二枚と七日分の代替職人賃がかかる。衣装長は完成した袖の縫い目を数え、その半分がこの裁縫師にしかできない細工だと認めた。細い橋三本が守ったのは皮膚だけでなく、婚礼の日程そのものだった。

夕刻、裁縫師は三本の上へ手袋を戻し、同じ手で王妃の婚礼衣装へ最後の真珠を縫いつけた。指を曲げても傷は開かず、白い手袋へ新しい血は一滴もにじまなかった。

王妃は完成した衣装より、手袋の下の三本を先に見た。

「兵士だけでなく、針を持つ者にも救護は要るのね」

宮廷工房全二十四室から、細い粘着布五千本の注文が出た。

注文書の監修欄へ署名したスヴェンナは、そのまま『宮廷軽傷処置官』として採用された。