不採用メールの宛先
採用担当になって二週間、篠崎遥へ届いた最初のクレームは、翌日に最終面接を控えた応募者からだった。
〈面接のご案内をいただいておりますが、先ほど不採用通知も受信しました。どちらが御社の正式な意思でしょうか〉
怒りの言葉はなかった。だからこそ、遥は背筋が冷えた。
採用管理画面では、その応募者は「保留」。役員の日程変更で、最終面接だけが一週間延びている。先輩は「誤配信と謝って、面接は予定どおりと返して」と言った。
遥は送信履歴を開いた。午前十時、保留者二十七人へ不採用メールが一括送信されている。件名も本文も正式な通知と同じで、受け取った側には誤配信だと見分ける手がかりがない。設定を確認すると、選考段階が七日間更新されない応募者を自動的に「終了」へ移す規則があった。日程延期の人も例外になっていない。
一人への訂正だけでは、残り二十六人が不採用だと思ったままになる。
「自動送信を止めます」
「今日の応募受付メールまで止まるよ」と先輩が言う。「問い合わせが来た人だけ直せばいい」
遥は停止ボタンを押した。応募受付が数分遅れても、誤った合否よりは戻せる。二十七人の選考状況を採用担当者と照合し、誤送信の対象を九人に絞った。中には、連絡がないと思い別社の内定を承諾した人もいた。会社にとっては九通でも、それぞれの応募者にとっては一つしかない進路だった。
遥は九人へ、単なる「システムエラー」ではなく、現在の選考状況と次の予定を個別に送った。最初の応募者には電話をかけ、会社側の手順ミスだと認めた。面接官にも事実を共有し、応募者がその件を尋ねても評価へ影響させないよう記録を残した。
「面接を受けるかどうかは、改めてお選びください」
相手は少し驚き、「そう言ってもらえたので、受けます」と答えた。
遥は、自動終了の条件から日数だけの判定を外し、担当者二名の確認を必須にする修正案を提出した。面接延期時には応募者へ即日連絡する欄も加える。
翌日の最終面接の同席者は、まだ空欄だった。
先輩が「気まずいでしょう。別の人にする?」と尋ねる。
遥は自分の名を入力した。
「誤送信した会社が、その後どう向き合うかまで、私が席にいます」