世界で最初の正午

配信開始の三時間前、島国だけ新作が遊べる状態になった。

 公式には、日本時間の正午に世界同時解禁。だが試験用の一般アカウントで確認すると、南太平洋の一地域だけ購入ボタンが開いている。発売管理の八十島玲央奈は、ストアの配信予約を見直した。

 登録されている時刻は「12:00」。問題は、その正午がどこの正午かだった。管理画面のタイムゾーン欄が空白で、各地域の現地時刻として解釈されている。日付変更線に近い島では、ほかより先に正午を迎えていた。

「全部、十二時になるまで待てばいい」

 宣伝担当が言う。玲央奈は首を振った。先に購入した利用者がいる。ここで閉じれば、代金を払った人からゲームを取り上げることになる。さらに配信者が映像を公開すれば、未発売地域へ物語の結末が流れる。

 全地域を今すぐ開ける案も出た。だが契約上、広告の開始前に販売できない国が二つある。

 玲央奈は、すでに開いた地域だけをそのままにし、残りをUTC基準の一つの時刻へ入れ直した。先行地域には告知を出さず、購入者数と接続数を監視する。小さな地域だからと放置せず、障害が起きたときの担当者も一人置いた。

 先行地域の購入者には、再ダウンロードできる権利が残っていることも確認した。遊べるのに更新だけ拒まれる状態を避けるためだった。

 設定後、彼女は地図の端から順に、二十の一般アカウントで確認した。購入できる地域、予約表示の地域、法律上ストア自体が出ない地域。境界が契約書どおりか、一つずつ見た。

 午前十一時五十九分五十秒、社内の大画面に世界時計が並んだ。十秒後、購入ボタンが一斉に変わった。先行した島では何も変わらない。それが正しい。

 拍手の中、宣伝担当が訊いた。

「世界で最初に遊んだ人、誰だったんでしょうね」

 玲央奈は接続記録の個人名を開かなかった。必要なのは人数と異常の有無だけだ。

 正午から三分後、別の地域で価格が桁違いだという警告が上がった。

 世界同時発売は終わっていない。玲央奈は二十個の時計を残したまま、今度は二十種類の通貨を並べ始めた。